龍皇女婚譚

日も高くなった頃、犀生皇子とレノ大使が到着したと連絡が入った。
璃緒は広間で静かにそれを待つ。
優雅に談笑しながらパーティーが始まるのを待っている貴族を見ながら、璃緒の後ろからシラクは声をかけた。
「良くこんなに集まりましたね…!」
急な事なので二日前に招待状を配った為、それ程集まらないだろう…とシラクは検討をつけていたのだが、予想を遥かに超え、予定の三倍の客人が訪れた。見れば馬車で三日はかかる地域の貴族までいる。
「どうやって間に合わせたのかしら…」
今頃シャシャ様とラティが悲鳴をあげながら女中達を指揮しているんだろうな…とシラクはぼんやりと思う。
「当然だわ。王族主催のパーティーってだけでも興味をそそるでしょうに、今回の主催者はパーティー不参加で有名な、この私よ?何が何でも参加しなくちゃ社交場で恥をかくわね。多分半年は今日の事でお茶会に花が咲くものっ」
字の通り、皆死ぬ気で用意したのだろう。ざっと眺めてたが全員ドレスやスーツを新調したようだ。
特に女性方の気合いと根性恐れ入るわね。ここまでくると敬服するわ…。
皆、流行の髪型に結い上げふわふわのドレスを身につけていてとても可愛らしい。
璃緒はちらりと自分のドレスを見る。
今日の璃緒はいつものシンプルなワンピースドレスと違い、レースやフリルのふんだんに付いたふんわりとした桃色のドレスに身を包んでいた。ドレスは下にいくにつれ鮮やかな赤に染まっていて、まるで花のようだ。何段にも重なったレースは真珠のチェーンで押さえている。髪は首近くで二房を三編みにし垂らし、残りの髪は結い上げ、蝶を模した銀の髪止めで留めている。
シャシャの力量も恐れ入るわ…。
最先端も最先端。熱の籠った眼差しで見られてる感じからすると髪型は新しく考案したのね。
シャシャが寝る間を惜しんでラティ達と璃緒の服装について話し合っているのを想像し、ふふっと笑った。
「どうしました?」
「何でもないわ。私、赤や化粧って苦手なのだけど、やっぱりこう…厄介な相手と張り合う時に化粧は必需品ね」
表情を隠せるし、何より気構えが違う。泣いたり怒ったりすれば化粧が崩れ醜くなる。そんな恥をかく気はない。
うん。よし、いける!
璃緒は今日の予定をさっと復習する。
クルーガー公爵が招待客を接待、皇子と大使がいらしたら広間へエスコート。私は広間で二人を待つ。簡単な挨拶が済んだらダンスパーティー。夕暮れに解散、夕食を三人で食べる。細かい所は臨機応変。
あなどれない人達らしいから、振り回されないようにしないと。
後は――…
「…シラク、準備は?」
「…明日の昼には整います。ですが姫様…っ」
続くシラクの言葉を手に持った扇でぴしゃっと止める。
「戦場で弱気な言葉は聞きたくないわ?」
にっこりと微笑む璃緒に、シラクは言葉を飲み込み頷いた。
うん。気合い十分ね。やっぱり化粧は良いわ。
「璃緒=エルト=グラシア王女殿下に申し上げます。煌帝国より犀生=煌第三皇子、バルディウス公国よりレノ=デュアル=ラドルフ大使、お目見えになりました!」
場内が一気にざわめきたつ。
―――――来た。
「お通しして」
璃緒はゆっくりと立ち上がり、ゆっくりと開かれる大きな扉を見つめる。
扉が完全に開かれるとクルーガー公爵のリードで二人の青年がゆったりと歩を進めた。
その姿を見て、先程まで談笑していた貴族達は慌てて膝を折る。
璃緒は歩いてくる二人を見つめた。
この二人……腹立たしい事にかっこいい…っ
あの褐色の肌の人が犀生皇子だろう。
金の刺繍の入った黒い着物をサラリと着流し程よく筋肉の付いた胸元を見せている。着物を縛っている帯の先にはぎっしりと刺繍が施され、さっぱりとした服装ながらも高価な物だと伺える。ゆったりとしたズボンで包まれた足はとても長い。右耳に輪形の黒いイヤリングをつけていて、少しくせっ毛の黒褐色の髪に良く合っていた。くせっ毛の髪は長く伸ばされ三編みにしている。悔しい程に整った顔立ちで、少しつり目で蜂蜜色の眼が璃緒を黙って見つめていた。
あの煌帝国で常勝無敗を誇り牛耳ってるだけあって、鋭い表情ね。
それをまたかっこいいと思ってしまう自分を見つけ、璃緒は急いで視線を外した。
く、悔しい…っしかもあいつ今にやりと笑わなかった……?
なめられた?うっわ腹立たしいっ
自分に憤慨しつつ、視線をレノ大使に向ける。
上質で柔らかなシルクの生地に細かな刺繍の入った(トーマの蔵書で見た"チャイナ服"に良く似ている)長めのシャツ。その上に厚手の濃紺の法衣を羽織っている。
ズボンは綺麗に足のラインを出し、犀生程ではないがやはり長い。
何よりも…この顔と髪…。
金糸のような、という表現が正にあう肩まで伸ばした髪がサラサラと彼の動きに合わして揺れる。
そして抜けるような白い肌と一際輝く真紅の瞳。
中性的な顔立ちから感じるミステリアスさと鮮血よりも赤い瞳にぞくりとする。
うっわ綺麗……。髪も肌も世界中の婦女子が羨むわね…。
目が合うとレノはゆったりと微笑んだ。
「―――っ」
璃緒は叫びそうになるのを無理矢理飲み込む。
どうしようこの人本当に綺麗でかっこいいわ!
裏を知らない人が"慈善家の好紳士"って信じてしまうのも納得する…っ
ちらっと後ろのシラク達を見ると、侍女達みんなが浮き足だっているのが分かった。
バルドスのようながっしりした体型好きのシラクでさえ、仄かに頬を染めている。
喧嘩時に自分より我を忘れてキレてる人を見ると逆に冷静になるというのは良くある話で、璃緒は侍女達を見てすっと冷静に戻った。
心が冷えていくのが分かる。
ここは…戦場。
璃緒は壇上から犀生とレノの前に立ち、ふわりと腰を折った。
「犀生=煌皇子、レノ=デュアル=ラドルフ大使。グラシアへようこそ。私はグラシア王国第一王女、璃緒=エルト=グラシアと申します。王女として国王に代わって歓迎いたしますわ。今日はどうぞお楽しみ下さいませ」
顔を上げると、妖艶の言葉を形にしたようなゆったりとした笑みを浮かべていたレノの口がおもむろに開かれた。
「これはグラシアの姫君、ご機嫌麗しゅう!絶世の美女だと聞いていたが噂は嘘ではないようだな。漆黒の髪に翡翠の瞳とはまるで闇夜に煌めく宝石そのままだな。」
「お世辞でも嬉しいですわ、大使」
璃緒は内心で"狐、狐"と呟き続ける。
「お世辞!お世辞などでこの感動を言い表せるだろうか?」
レノは璃緒の手を取り続ける。
「貴方の様な至高の宝石を大観衆の中に晒してしまうのは非常に惜しい…しかし哀しい事に私もまたその奇跡の様な幸運に巡り逢えた者大観衆の一人。その輝きにベールを被せる事など出来ない…っそうとも出来ないとも。貴方の瞳が瞬く度に僕の心は初めて生を知ったかの様に脈打ち始める。その輝きを喪えば僕は哀しみにのたうち回りながらこの灰色の世界の中で一人寂しく朽ち果てねばならぬのだろう……っ何という悲劇!君を他人に見せたくなどないのに君に魅せられた私には君を隠す事が出来ない…っあぁかの三大悲劇を描いたノストラールでさえこの様な悲劇など到底描けなかっただろう…。桃色のドレスとはまた愛らしい…!僕の真紅の瞳と並べばどれだけ映えるだろうか…。それも考えての桃色かい?いや、聞かずとも分かっている!なんて罪深くそして愛らしいのだろう…っ僕の為に美しく着飾ってくれるとは…正に薔薇だね!この場には多くの花が存在するが、君と比べたら花と呼ぶのも差し支える…。そうとも君の微笑みは香りとなって更に僕を惑わせる魅惑の花だ。いったいどれだけ刺を秘めているんだい?子猫ちゃん」
「子猫ちゃん!?」
怒涛のレノの言葉に黙って笑っていた璃緒だったが、あまりの衝撃に思わず声が出る。
会場の気温が二度程下がったのは気のせいではないだろう。
「子猫ちゃん!!愛する物の代名詞!その愛苦しい仕草、濡れ輝く瞳、柔らかなベルベットの様な肌触り!正に"愛される"その為だけに生を与えられたもうた神からの贈り物…それこそが子猫!!」
後ろでシラクが声を出さずに悲鳴を上げているのを感じる。
「今時子猫はねぇだろ」
全くだわ。
璃緒は心の中で呟きながら、黙って眺めている犀生を見る。
「あぁ我が愛しの君!他の男に視線を向けるなんて、なんて拷問を…っ」
レノは璃緒の手を取っているのとは逆の手で璃緒の頬に触れる。
「手を退けなさいレノ大使。」
「あぁ何故君はその様な冷たい眼で僕を見るのだろうかっその視線に見つめられたら僕の心は霜に焼かれる冬薔薇の如く…っ!?」
突然の痛みにレノは驚いてぱっと手を離し、璃緒の肩にいる白い生き物を睨み付ける。
な、何?
璃緒が慌てて首を捻ると、ふわふわとした白い毛の小さな猿が肩に座り、その赤く大きな眼でレノを威嚇していた。
この子が引っ掻いたの…。
見るとレノの手の甲に赤い線が入っている。
「戻れ、リア」
リアと呼ばれた小猿はききっと鳴くと、犀生の肩にするすると登り、毛繕いを始めた。
「ホワイトジュエルモンキーか。君のペットかい?犀生皇子。随分なご挨拶だね、僕の手を引っ掻くとは」
「いや、奴隷。咬まれなくて良かったな」
そう言うと犀生はリアを叩き落とした。
リアは床に落ちて丸まり、きゅうっと鳴くと、璃緒に駆け寄り肩に収まった。
「誰が守ってくれるか分かってるのね、賢い子じゃないの。可哀想に」
璃緒がリアの背を撫でると、リアは"ちゅ"と璃緒の頬にキスをし、それを見て犀生は「けっ」と笑った。
「何だい何だい?猿の分際で、姫君のドレスは自分の目に合わせたとでも言うのかな?憎たらしいことこの上ないねっ」
「ドレスへのお言葉ありがとう。それなら後ろの侍女に言って挙げてくれる?」
「ひぇ!?」
突然引き合いに出されたシラクがすっとんきょうな声を上げる。
「そうかい君が美しいドレスをこの世に生み落としたのだね!なるほど、美しい物は美しい人から生み出されると言うのは真実のようだ…。非常に愛らしい。その可愛らしい指先から一本一本紡がれる刺繍の輝きと言ったら、感極まるね!」
「あぁぁぁあのお顔が近いです近いです!」
「こんなに頬を染めて…可愛いね。流石はグラシア王国!気高く麗しい姫君に、初々しく可愛らしい貴婦人方とは…。両手に花とは正にこの事。愛し過ぎてどちらに微笑みかければ良いか…っあぁ神よこの様な苦しみ…僕が何をしたのでしょうか…っ」
「うっぜぇな、んなもん全員キープしとけば良いじゃねぇか」
「えぇぇぇ!?」
騒がしい三人を眺めて、璃緒はため息を吐きながらリアのアゴをくすぐる。
「困った方達ばかりね…?パーティーが始まらないわ」
そうだね、と言うようにリアは目を瞬かせた。
本当に…こんなに扱い難い人達だとは思わなかったわ。
「璃緒…姫。知らねぇ様だから言っとくが、ホワイトジュエルモンキーの牙には猛毒が詰まってるから、気をつけろ」
ぎょっとして肩上のリアを見ると、リアは何?と首をかしげた。
「猛毒…?」
綺麗な物に棘…って事?
璃緒は撫でながら観察する。
シラクの手の甲に口付けしていたレノが、さらりと告げる。
「あぁ…グラシア王国では生息してませんから姫君は知らないでしょうが、ホワイトジュエルモンキーの牙に猛毒があるのは本当ですよ。一咬みで熊を動かなくさせる程度ですがね」
その言葉に、璃緒は全身から血の気が引くのが分かった。リアを撫でる手がピタリと止まる。
その様子に犀生が笑いながら近づいてきた。
「ずっと女王様みたいに毅然としてるから、つまんねぇ女かと思えば…可愛いじゃねぇか」
璃緒の肩からリアを取り上げる瞬間に、そっと耳元で囁く。
「そういう可愛い表情してっと、あんたに息も出来ねぇ程エロい事したくなんだけど?」
――――――――!!
犀生は璃緒を見てにやりと笑うと、くるりと背を向けシャンパンを配るボーイに近づきグラスを三つ取った。そして無言で睨む璃緒と皮肉な笑みを浮かべるレノに渡し、杯を掲げた。
「グラシアに」
犀生が不敵に告げる。
「グラシアに」
レノが優雅に告げる。
舐めてたわ…。こいつらは瑯を奪った敵だってのに。
璃緒は皆に見えるよう高く杯を掲げ、高らかに告げる。
「グラシアに」
そしてパーティーは始まった。
by 遊 水羽  at 19:43 |  GuildWorld -龍皇女婚譚- |  comment (0)  |   |  page top ↑
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プロフィール

Author:遊 水羽
+ゆとりのオリジナルキャラクター
瑯row 玖桜cou 揶矯yata 璃緒akio
の日記形式で展開します。
空飴風味本舗で描く本編とはまた違った瑯達の世界をお楽しみ下さいv
※キャラクター基本設定に変更はありません。
設定は国などをまとめ次第、空飴風味本舗にてUPさせて頂きます。


=言いたいことをぽつぽつと。=

いらした方はぜひ足跡残して下さいなv
コメント大歓迎です!どうぞゆとりに知恵を…!!

また字間違い等ありましたらご連絡下さいっ
ついでに遊がBLに走りそうだったらどうぞ止めてやってください。
ここだけの話、遊の脳内では最初揶矯×瑯の話でした。玖桜はオマケだったという…頑張れヒロイン笑

ゆとりは文才皆無ですので稚拙な文に不快になられる方は全力でこの場から逃げることをオススメします。

未だにキャラの口調が掴みきれてなかったりorz
日記形式ってのが分かり難いんだ←

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文が完成したらこっそりと更新してます。

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