龍皇女婚譚

日も高くなった頃、犀生皇子とレノ大使が到着したと連絡が入った。
璃緒は広間で静かにそれを待つ。
優雅に談笑しながらパーティーが始まるのを待っている貴族を見ながら、璃緒の後ろからシラクは声をかけた。
「良くこんなに集まりましたね…!」
急な事なので二日前に招待状を配った為、それ程集まらないだろう…とシラクは検討をつけていたのだが、予想を遥かに超え、予定の三倍の客人が訪れた。見れば馬車で三日はかかる地域の貴族までいる。
「どうやって間に合わせたのかしら…」
今頃シャシャ様とラティが悲鳴をあげながら女中達を指揮しているんだろうな…とシラクはぼんやりと思う。
「当然だわ。王族主催のパーティーってだけでも興味をそそるでしょうに、今回の主催者はパーティー不参加で有名な、この私よ?何が何でも参加しなくちゃ社交場で恥をかくわね。多分半年は今日の事でお茶会に花が咲くものっ」
字の通り、皆死ぬ気で用意したのだろう。ざっと眺めてたが全員ドレスやスーツを新調したようだ。
特に女性方の気合いと根性恐れ入るわね。ここまでくると敬服するわ…。
皆、流行の髪型に結い上げふわふわのドレスを身につけていてとても可愛らしい。
璃緒はちらりと自分のドレスを見る。
今日の璃緒はいつものシンプルなワンピースドレスと違い、レースやフリルのふんだんに付いたふんわりとした桃色のドレスに身を包んでいた。ドレスは下にいくにつれ鮮やかな赤に染まっていて、まるで花のようだ。何段にも重なったレースは真珠のチェーンで押さえている。髪は首近くで二房を三編みにし垂らし、残りの髪は結い上げ、蝶を模した銀の髪止めで留めている。
シャシャの力量も恐れ入るわ…。
最先端も最先端。熱の籠った眼差しで見られてる感じからすると髪型は新しく考案したのね。
シャシャが寝る間を惜しんでラティ達と璃緒の服装について話し合っているのを想像し、ふふっと笑った。
「どうしました?」
「何でもないわ。私、赤や化粧って苦手なのだけど、やっぱりこう…厄介な相手と張り合う時に化粧は必需品ね」
表情を隠せるし、何より気構えが違う。泣いたり怒ったりすれば化粧が崩れ醜くなる。そんな恥をかく気はない。
うん。よし、いける!
璃緒は今日の予定をさっと復習する。
クルーガー公爵が招待客を接待、皇子と大使がいらしたら広間へエスコート。私は広間で二人を待つ。簡単な挨拶が済んだらダンスパーティー。夕暮れに解散、夕食を三人で食べる。細かい所は臨機応変。
あなどれない人達らしいから、振り回されないようにしないと。
後は――…
「…シラク、準備は?」
「…明日の昼には整います。ですが姫様…っ」
続くシラクの言葉を手に持った扇でぴしゃっと止める。
「戦場で弱気な言葉は聞きたくないわ?」
にっこりと微笑む璃緒に、シラクは言葉を飲み込み頷いた。
うん。気合い十分ね。やっぱり化粧は良いわ。
「璃緒=エルト=グラシア王女殿下に申し上げます。煌帝国より犀生=煌第三皇子、バルディウス公国よりレノ=デュアル=ラドルフ大使、お目見えになりました!」
場内が一気にざわめきたつ。
―――――来た。
「お通しして」
璃緒はゆっくりと立ち上がり、ゆっくりと開かれる大きな扉を見つめる。
扉が完全に開かれるとクルーガー公爵のリードで二人の青年がゆったりと歩を進めた。
その姿を見て、先程まで談笑していた貴族達は慌てて膝を折る。
璃緒は歩いてくる二人を見つめた。
この二人……腹立たしい事にかっこいい…っ
あの褐色の肌の人が犀生皇子だろう。
金の刺繍の入った黒い着物をサラリと着流し程よく筋肉の付いた胸元を見せている。着物を縛っている帯の先にはぎっしりと刺繍が施され、さっぱりとした服装ながらも高価な物だと伺える。ゆったりとしたズボンで包まれた足はとても長い。右耳に輪形の黒いイヤリングをつけていて、少しくせっ毛の黒褐色の髪に良く合っていた。くせっ毛の髪は長く伸ばされ三編みにしている。悔しい程に整った顔立ちで、少しつり目で蜂蜜色の眼が璃緒を黙って見つめていた。
あの煌帝国で常勝無敗を誇り牛耳ってるだけあって、鋭い表情ね。
それをまたかっこいいと思ってしまう自分を見つけ、璃緒は急いで視線を外した。
く、悔しい…っしかもあいつ今にやりと笑わなかった……?
なめられた?うっわ腹立たしいっ
自分に憤慨しつつ、視線をレノ大使に向ける。
上質で柔らかなシルクの生地に細かな刺繍の入った(トーマの蔵書で見た"チャイナ服"に良く似ている)長めのシャツ。その上に厚手の濃紺の法衣を羽織っている。
ズボンは綺麗に足のラインを出し、犀生程ではないがやはり長い。
何よりも…この顔と髪…。
金糸のような、という表現が正にあう肩まで伸ばした髪がサラサラと彼の動きに合わして揺れる。
そして抜けるような白い肌と一際輝く真紅の瞳。
中性的な顔立ちから感じるミステリアスさと鮮血よりも赤い瞳にぞくりとする。
うっわ綺麗……。髪も肌も世界中の婦女子が羨むわね…。
目が合うとレノはゆったりと微笑んだ。
「―――っ」
璃緒は叫びそうになるのを無理矢理飲み込む。
どうしようこの人本当に綺麗でかっこいいわ!
裏を知らない人が"慈善家の好紳士"って信じてしまうのも納得する…っ
ちらっと後ろのシラク達を見ると、侍女達みんなが浮き足だっているのが分かった。
バルドスのようながっしりした体型好きのシラクでさえ、仄かに頬を染めている。
喧嘩時に自分より我を忘れてキレてる人を見ると逆に冷静になるというのは良くある話で、璃緒は侍女達を見てすっと冷静に戻った。
心が冷えていくのが分かる。
ここは…戦場。
璃緒は壇上から犀生とレノの前に立ち、ふわりと腰を折った。
「犀生=煌皇子、レノ=デュアル=ラドルフ大使。グラシアへようこそ。私はグラシア王国第一王女、璃緒=エルト=グラシアと申します。王女として国王に代わって歓迎いたしますわ。今日はどうぞお楽しみ下さいませ」
顔を上げると、妖艶の言葉を形にしたようなゆったりとした笑みを浮かべていたレノの口がおもむろに開かれた。
「これはグラシアの姫君、ご機嫌麗しゅう!絶世の美女だと聞いていたが噂は嘘ではないようだな。漆黒の髪に翡翠の瞳とはまるで闇夜に煌めく宝石そのままだな。」
「お世辞でも嬉しいですわ、大使」
璃緒は内心で"狐、狐"と呟き続ける。
「お世辞!お世辞などでこの感動を言い表せるだろうか?」
レノは璃緒の手を取り続ける。
「貴方の様な至高の宝石を大観衆の中に晒してしまうのは非常に惜しい…しかし哀しい事に私もまたその奇跡の様な幸運に巡り逢えた者大観衆の一人。その輝きにベールを被せる事など出来ない…っそうとも出来ないとも。貴方の瞳が瞬く度に僕の心は初めて生を知ったかの様に脈打ち始める。その輝きを喪えば僕は哀しみにのたうち回りながらこの灰色の世界の中で一人寂しく朽ち果てねばならぬのだろう……っ何という悲劇!君を他人に見せたくなどないのに君に魅せられた私には君を隠す事が出来ない…っあぁかの三大悲劇を描いたノストラールでさえこの様な悲劇など到底描けなかっただろう…。桃色のドレスとはまた愛らしい…!僕の真紅の瞳と並べばどれだけ映えるだろうか…。それも考えての桃色かい?いや、聞かずとも分かっている!なんて罪深くそして愛らしいのだろう…っ僕の為に美しく着飾ってくれるとは…正に薔薇だね!この場には多くの花が存在するが、君と比べたら花と呼ぶのも差し支える…。そうとも君の微笑みは香りとなって更に僕を惑わせる魅惑の花だ。いったいどれだけ刺を秘めているんだい?子猫ちゃん」
「子猫ちゃん!?」
怒涛のレノの言葉に黙って笑っていた璃緒だったが、あまりの衝撃に思わず声が出る。
会場の気温が二度程下がったのは気のせいではないだろう。
「子猫ちゃん!!愛する物の代名詞!その愛苦しい仕草、濡れ輝く瞳、柔らかなベルベットの様な肌触り!正に"愛される"その為だけに生を与えられたもうた神からの贈り物…それこそが子猫!!」
後ろでシラクが声を出さずに悲鳴を上げているのを感じる。
「今時子猫はねぇだろ」
全くだわ。
璃緒は心の中で呟きながら、黙って眺めている犀生を見る。
「あぁ我が愛しの君!他の男に視線を向けるなんて、なんて拷問を…っ」
レノは璃緒の手を取っているのとは逆の手で璃緒の頬に触れる。
「手を退けなさいレノ大使。」
「あぁ何故君はその様な冷たい眼で僕を見るのだろうかっその視線に見つめられたら僕の心は霜に焼かれる冬薔薇の如く…っ!?」
突然の痛みにレノは驚いてぱっと手を離し、璃緒の肩にいる白い生き物を睨み付ける。
な、何?
璃緒が慌てて首を捻ると、ふわふわとした白い毛の小さな猿が肩に座り、その赤く大きな眼でレノを威嚇していた。
この子が引っ掻いたの…。
見るとレノの手の甲に赤い線が入っている。
「戻れ、リア」
リアと呼ばれた小猿はききっと鳴くと、犀生の肩にするすると登り、毛繕いを始めた。
「ホワイトジュエルモンキーか。君のペットかい?犀生皇子。随分なご挨拶だね、僕の手を引っ掻くとは」
「いや、奴隷。咬まれなくて良かったな」
そう言うと犀生はリアを叩き落とした。
リアは床に落ちて丸まり、きゅうっと鳴くと、璃緒に駆け寄り肩に収まった。
「誰が守ってくれるか分かってるのね、賢い子じゃないの。可哀想に」
璃緒がリアの背を撫でると、リアは"ちゅ"と璃緒の頬にキスをし、それを見て犀生は「けっ」と笑った。
「何だい何だい?猿の分際で、姫君のドレスは自分の目に合わせたとでも言うのかな?憎たらしいことこの上ないねっ」
「ドレスへのお言葉ありがとう。それなら後ろの侍女に言って挙げてくれる?」
「ひぇ!?」
突然引き合いに出されたシラクがすっとんきょうな声を上げる。
「そうかい君が美しいドレスをこの世に生み落としたのだね!なるほど、美しい物は美しい人から生み出されると言うのは真実のようだ…。非常に愛らしい。その可愛らしい指先から一本一本紡がれる刺繍の輝きと言ったら、感極まるね!」
「あぁぁぁあのお顔が近いです近いです!」
「こんなに頬を染めて…可愛いね。流石はグラシア王国!気高く麗しい姫君に、初々しく可愛らしい貴婦人方とは…。両手に花とは正にこの事。愛し過ぎてどちらに微笑みかければ良いか…っあぁ神よこの様な苦しみ…僕が何をしたのでしょうか…っ」
「うっぜぇな、んなもん全員キープしとけば良いじゃねぇか」
「えぇぇぇ!?」
騒がしい三人を眺めて、璃緒はため息を吐きながらリアのアゴをくすぐる。
「困った方達ばかりね…?パーティーが始まらないわ」
そうだね、と言うようにリアは目を瞬かせた。
本当に…こんなに扱い難い人達だとは思わなかったわ。
「璃緒…姫。知らねぇ様だから言っとくが、ホワイトジュエルモンキーの牙には猛毒が詰まってるから、気をつけろ」
ぎょっとして肩上のリアを見ると、リアは何?と首をかしげた。
「猛毒…?」
綺麗な物に棘…って事?
璃緒は撫でながら観察する。
シラクの手の甲に口付けしていたレノが、さらりと告げる。
「あぁ…グラシア王国では生息してませんから姫君は知らないでしょうが、ホワイトジュエルモンキーの牙に猛毒があるのは本当ですよ。一咬みで熊を動かなくさせる程度ですがね」
その言葉に、璃緒は全身から血の気が引くのが分かった。リアを撫でる手がピタリと止まる。
その様子に犀生が笑いながら近づいてきた。
「ずっと女王様みたいに毅然としてるから、つまんねぇ女かと思えば…可愛いじゃねぇか」
璃緒の肩からリアを取り上げる瞬間に、そっと耳元で囁く。
「そういう可愛い表情してっと、あんたに息も出来ねぇ程エロい事したくなんだけど?」
――――――――!!
犀生は璃緒を見てにやりと笑うと、くるりと背を向けシャンパンを配るボーイに近づきグラスを三つ取った。そして無言で睨む璃緒と皮肉な笑みを浮かべるレノに渡し、杯を掲げた。
「グラシアに」
犀生が不敵に告げる。
「グラシアに」
レノが優雅に告げる。
舐めてたわ…。こいつらは瑯を奪った敵だってのに。
璃緒は皆に見えるよう高く杯を掲げ、高らかに告げる。
「グラシアに」
そしてパーティーは始まった。
by 遊 水羽  at 19:43 |  GuildWorld -龍皇女婚譚- |  comment (0)  |   |  page top ↑

龍皇女婚譚

溶ける様に、深く深く隅の隅まで入り込んで、私の体の一部に。
王城ルクシェブルクの門前で三人の近衛兵が長い槍に持たれつつ、まだ寒い春の夜の冷たさを堪えながら立っていた。
「う〜まだ寒いなぁ。こう寒いと熱いラテ酒(蜂蜜酒)をグイッといきてぇなぁ」
少しでも暖まろうと足を動かし脚あてをカチャカチャと言わせる。
「だなぁ…って、そりゃいつもじゃねぇか」
「そうだそうだ!そうに違いねぇや!…しかし眠いな」
兵士達ががはがはと笑っていると、内一人がポツリと呟いた。
「おいおい…まだ二時だぜ?キバレよ」
「分かってんよっ…けど瞼が落ちてくんだよなぁ…ふぁ」
「俺もだ…春の夜だからか…?ふあぁ……」
バシバシと頬を叩くがなかなか眠気は抜けない。
しばらくするとガシャンという音が響き、一人の兵が槍を落として倒れ込んだ。直ぐに助け起こそうとした二人も力が抜けたように倒れ込み、静かに寝息を発て始めた。
ひっそりと静まりかえった門前にこっそりと足音を殺して一人の少女が近付く。そのまま眠っている兵士の腰から鍵を奪い門を開け、静かに門の中に滑り込んだ。門のすぐ側にある駐在所に控えていた五人程の兵士もぐっすりと眠り込んでいるのを確認し、城の中へ足を進める。
いくら夜と言っても王城。起きてる人がぱらぱらといて、それらを物陰に隠れたりして避けながら少女は目的の部屋へ足を進めた。
「おや、本当に玖桜殿が来たのう。陛下の言われた通りですじゃ」
「!!」
三階へ続く階段の大広間に少女が辿り着いた時、突然段上で蝋燭の灯りが灯った。仄暗い蝋燭の灯りの中に浮かび上がる人影に少女は身を固くする。
段上には柔らかな物腰の初老の騎士が微笑を浮かべて佇んでいた。
騎士隊の制服である金の肩飾りと、ボタンの付いた漆黒の膝下までの長いローブと、黒の軍用靴で身を包み、胸には騎士隊の紋章である剣に絡む龍をあしらった金のブローチが輝き、腰には細身の長剣が鎖で吊るされていた。
綺麗な白髪は首の後ろできっちりと結ばれ、鎖骨辺りまで伸びた顎髭はきちんと整えられている。
柔らかな琥珀の瞳は優しく少女―玖桜を見つめていた。
「……千隼大佐」
千隼と呼ばれた初老の騎士は、玖桜の爛々と金色に輝く目を見つめ、柔らかに告げる。
「力を止めていただけはせんかな?そんなことせんでも玖桜様を止めやせんよ」
玖桜は一瞬逡巡するも、言われた通りにする。軽く目を閉じ開いた次の時には、もう彼女の瞳はいつもの褐色に戻っていた。
「力のコントロール…大分手慣れておりましたのう」
うーん。そうでしょうかね。
玖桜はむぅ…と唸りながら顔の前で手をひらひらとさせる。
「コツは掴んできました。自分が操りたい物の全てになる感じ……細胞に成れば良いんです。天候を操ったりとかは…一人では無理なんですけど」
そうですか…とのんびりと言う大佐はまるでお爺ちゃんのようだと思い、王宮の重圧感に緊張していた玖桜は少し安心する。
「私が来ること…国王はご存知で?」
登ってくる玖桜を待ちながら千隼は答える。
「璃緒様の縁談話がもちこまれた時、昨日の話じゃが、その時から…いつか来るだろう…とは。」
私の行動は読まれてるって事ですね。
「……大佐はどこまでご存知でここにいらっしゃったんですか?」
「詳しくは何も存じとりませんが貴方がいらっしゃるということは、璃緒様の縁談とあの盗賊の少年が一枚絡んでいるんだろうと推測しておりましたな」
違いましたかな?と千隼は国王の部屋へ案内しつつ視線で尋ねる。
「私も璃緒ちゃんの縁談はさっき聞いたばかりです」
「そうですか」
「…瑯の事は、どう推測してらっしゃいますか?」
千隼はふむ、と少し考えてから口を開いた。
「私も国王の側近の一人ですからな、少年が"王の盗人"として働いているのは耳にしております。貴方が力を使ってまであまり近付かない王城に来られるという事は、それ相応の事態が起きたのでしょうな。縁談を滅多に受けない璃緒様が自ら相手に会いに行ったのもその為じゃろう」
「王は瑯を探すでしょうか」
「国交の妨げにならなければ探すでしょうのう。それは国王のお考え次第じゃて」
玖桜がポツリと呟くと、千隼は用意されていた答えを返した。
「そう…」
玖桜はそう言うと口をつぐみ、千隼もまた黙って歩を進めた。
やがて他より一回り大きく細工の細かい扉が見えてきた。
あれが国王の部屋。
扉の前で止まると、千隼は扉を小さくノックすると直ぐに返答があり、内側に控えていた騎士が小さく扉をあける。
「さぁどうぞ中へ。ほりゃお前はワシと共に外で番じゃ、はよ出なさい」
千隼は玖桜を中へやりつつ騎士を引っ張り出す。最後に軽く深呼吸して中へ入る玖桜の背中に呼びかけた。
「少年が無事でいるよう祈っとります。それと、お困りでしたらいつでもお声をおかけ下さい。出来る限りの力をお貸ししますじゃ」
玖桜が振り向いた時には扉がしまった後だったが、玖桜は千隼に向かい「ありがとう」と微笑んだ。
「千隼大佐は相変わらずお主に甘いな」
「"あら、女性全てにお優しいのよ。"と璃緒様なら仰ると思いますよ。全=ジェドモンド国王陛下」
玖桜は正面に座る全を見据えて答えるとスカートを摘まみぺこりと頭を下げ、直立に戻る。
「目に浮かぶようだよ。それと、いつもの様に話しなさい。私の前だからと言って呼び方を変える必要はない。」
本来なら私こそ敬語を使うべきなのかもしれないしな、と笑いながら全は立ち上がり、玖桜を客席へ誘う。
玖桜はお互いに腰掛けたのを確認すると、軽く息を吐き躊躇いを捨て唇を開いた。
「単刀直入に申しあげます。瑯はどこ?」
「私達は認知していない」
全は玖桜がそう言うだろうと計っていたタイミングで返答した。
「最後に瑯が連絡したのはどこです?」
「煌帝国の山中、鷹を使って書を寄越して以来途絶えている」
「瑯はどこに何を調べに向かっていたんですか?」
「煌帝国とバルディウス公国のどちらかだろう。他国の秘宝について調べていた。次はこちらが聞こう。何を感じてここへ来た」
秘宝――…私も噂くらいは聞いた事があります。関わりのない話ではありませんし。
「…瑯を探す気はあるんですか?」
「――質問に答えなさい。」
 ――――――…!!
玖桜の全身にぞわっと悪寒が走り鳥肌が立った。
やっぱり国王は…怖い。
玖桜は全の全身から発せられる威圧感に呑まれそうになる。
「――言わないと言う事は、私に言えば捜索は断たれ、自分で探しに行くのも邪魔されるから言わないという事か」
「違う…っ」
顔を上げると怒りに燃えた全の目をまともに見てしまい一瞬ですくみ上がる。
全は玖桜の身が固くなったのに気付き、苦笑し態度を柔らかく改めた。
「私が国民を見捨てると思うか。私は国を統べる者として国民を第一に考えている。確かに生まれたばかりのお主を親元から離し、神殿に閉じ込めた事は許される事ではないだろう。しかしあの様な辺境の地に巫女を置き去りにすればいつお主や周りの者の命を危険に晒すか分からぬ。私の役目は国民の命を守る事だ。」
「それは…国民の心は守らないのですか?」
「もちろん守れるなら守りたい。しかし全ての国民を守る事が出来る程自分に力があるなどと驕るつもりはない。そして守るだけでは人は成長出来ぬ。国民が弱くなる。いくら保護し支援しようとも、最後は己の力で立つしかないだろう。」
う、正論です。
「私は花を愛でる時、雑草は抜くが農薬を撒きはしないのだよ」
やっぱり私では勝てないですね。理解して、納得してしまうから。
玖桜はため息をつき、悔しいながらも口を開いた。
「一瞬、瑯の感情の激しいブレを感じ、その後繋がりが一気に切れました」
「ふむ…それを巫女はどう見る?」
「瑯は囚われ、結界か何か…私と瑯との繋がりを断つ物の中にいる…のだと。」
「やはりそうか……」
ではどうするかな…と思案する全に玖桜は厳しい顔で訊ねた。
「瑯をお探しになりますか?」
「瑯には"王の盗人"となる際に"俺が捕まっても王が悩む事はない。眉を寄せず足枷は捨てろ"と言われた」
「ええ…」
分かってます。
玖桜は膝の上できゅっと拳を握る。
「一人の盗人の為に戦争の危険を招くつもりもない」
「えぇ分かってます。分かってますけど…」
「しかし私としては――…有能な盗人を失うのは非常に惜しい」
それは――…。
玖桜はわなわなと唇を震わす。
「更に次期国王が盗人に妙に執着しているし、愛娘は探しに行くと自ら敵陣に赴くし……困った事じゃないかね?ん?」
それは…。
「…探して…頂けるのですね……?」
ほろりと落ちた涙を全は優しく拭い取った。
「あ、す、すみません…っあのあの…」
「突然瑯との繋がりが切れて心細かったのだろう…?ここまで張りつめた表情で…やはりお主には笑顔の方が似合う」
―――…寂しかった。
玖桜の大きな目から涙が溢れた。
「これが"寂しい"なんですね」
神殿にいる時は、こんな気持ち知らなかった。
寂しかった。寂しい、寂しいんです瑯。
一度知ったら、知らない事には出来ないんです。
「あぁ全くこんなに泣いて…。必ず助け出す」
寂しい、会いたい、会いたい。
一人は怖い、会いたい、会いたいんです。
「安心したかね?」
全が差し出したハンカチに玖桜は顔を埋めた。
「……はい」
穏やかに玖桜を眺めた全が「お茶でも淹れさせよう」と立ち上がったその時。
バンッと扉が大きく開かれた。
「父さ…国王!!緊急伝令ですっ」
そこまで叫んで、玖桜がいるのに気付き、深良は慌てて口を接ぐんだ。
「良い、深良=ディル。報告を」
良いのか…?と少し心配そうな顔で深良は報告した。
「璃緒=エルが弓でいられ、崖に墜落。生存はまだ確認されておりません。」
ゆ…み……?
ぐらりと世界が歪むのが分かった。
ふらりと倒れそうになるのを、深良が咄嗟に受け止める。
玖桜は顔をを両手で覆い、「璃緒ちゃん…」と苦し気に洩らした。
全は椅子に深く腰掛け直し、静かにため息を吐いた。
「深良=ディル。そこに…バルドスかラティ、シラクはいなかったのか?」
「は…いえ、少し離れた所に居た様ですね。璃緒は客人二人と話していた…と。」
深良の報告にゆっくり頷くと、玖桜をじっと見つめた。
「玖桜。お主は瑯と璃緒を助けたいかね?」
「もちろん……っ私に何か出来る事がありますでしょうか?」
「では協力願おう。」
玖桜はじっと言葉を待ち、深良もまた見つめ、王の頭を駆け巡る考えを読み取ろうと待った。
全は暫し悩むが、意気込んで答えた玖桜を見据え告げた。
「…揶矯を呼び戻し、これを持って二人でシシル山脈を越えて煌帝国へ」
そう言うと、胸元に手を入れ、木の皮紐のネックレスを取り出す。
皮紐の先には複雑に彫られた龍の水晶が下がり、きらりと光を放っていた。
by 遊 水羽  at 13:27 |  GuildWorld -龍皇女婚譚- |  comment (0)  |   |  page top ↑

陽露月13日目

璃緒=エルト王女、深良=ディル王子。
二人の仲は悪いと言う人は多い。
「璃緒っそんなにチーズばかり食べるなっ。ハムとレタスもバランス良く食べないかっ」
「あら、お兄様こそお酒をお控えになったら?眠ってベットの上でお嬢様方を退屈させてはダメよ?」
「はっお前こそダンスを踊ってきたらどうだ?まぁ、日頃から城内を駆け回るようなお転婆には少々辛い事かもしれんが?」
「あら嫌だわお兄様。貴方の様にいちいち群がる貴族を相手にしていたら、王族の品位を落とすではありませんか。私はお兄様と違って誇り高いのです」
「貴族の男相手ににこりとも笑わない方が、淑女として、王族として恥ずかしいと思うが、まぁ私と違って真の王族の品位を持たないお前には分かるまいなぁ?」
二人とも顔がだんだん上気し、眼が本気になっている。
どっちかが譲れば良いじゃないか。
でも二人ともプライド高いからなぁ…。
二人には派閥があり、派閥間でどちらが次期政権を握るかいつも争っている。(璃緒様は王位を継ぐ気が無いから無意味だと思うが…)
そんな二人が社交場で一緒にいるのは珍しい。
上手くやれば二人に取り入るチャンスである。
「王子殿下、王女殿下。本日もご機嫌麗しゅう。私、西トットルランディック領領主オマートの息子、マラドネス=トットルランディックと申します」
そして一歩間違えれば、二人の集中砲火を浴びる場でもある。
「お前、何者?このおかっぱ」
「おかっぱで美しい友人はいるが、お前には似合わない。切れ、見苦しい」
「だいたい趣味が悪いわ。真紅の上着だなんて」
「足が短いのに長い上着を着るな」
「あら本当。なんてちんちくりんでみすぼらしいのかしら」
「その狐目が不快だ」
「ぼてっとした唇がいやらしいですわ」
「目の毒」
「神経が犯されます」
マラド…なんとかは、顔を真っ赤にしながら友人の元へ逃げ帰った。
周りの人々は、世間知らずの小貴族に同情の言葉を掛ける。
若くして知って良かったな。良い経験だ。あのお二人は敵に回してはいけない。と。
璃緒様と深良様は顔を見合わせ満足そうに親指を立てた。
璃緒=エルト王女と深良=ディル王子は仲が悪いと人は言う。
その真意は、いかに?
「絶対、仲が良いだろ…」
by 遊 水羽  at 22:42 |  揶矯の日記 |  comment (0)  |   |  page top ↑

陽露月9日目

「ナツメっ良い隠れ場所知らない?」
いつ揶矯に見つかるかヒヤヒヤしながら、隠れ場…と悩むナツメを引っ張る。
「東はヤバいっすよ」
「揶矯は西にいるハズよ?」
私の疑問にナツメは自分の耳を軽く叩いて苦笑する。
「そっか…エルフと人間の混血だったわね…」
彼の耳たぶの半分を挟む金の髪飾りには、王宮で働く際に極秘情報を盗み聴きなど出来てしまう聴覚を押さえる為に、玖桜によって封印語が彫られている魔道具である。
「耳と目がちょっと良いだけで、寿命も魔力も普通。外見もエルフの白金じゃなくて黒鳶の落ちこぼれ亜人っすけどねっ」
「そんな…っ」
否定しようと思ったが、ナツメによってそれは遮られた。
両頬をぐに〜っと引っ張るのはナツメの手。
樺色の目がにこーっと細まる。
「にゃひほふふにょほっ」
すみません不敬罪は勘弁、とあははと笑いながらナツメは手を離す。
「何をするのよっ」
「ダメっすよ」
「何がよ」
「"悲しそうに亜人と言わない"とか"落ちこぼれじゃない"って言おうとしたっしょ。亜人ってのはそれだけで差別用語だし、俺を仲間にしたら誇り高いエルフ族を貶める行為だ。貴方は人間だって言うのも差別っすよ。仮にも一国の姫がそんな発言はヤバいだろ〜」
私は軽くナツメの頬を叩き
「今のは"仮にも"の分」
拳で抉るように逆の頬を殴った。ナツメは目を白黒させながら尻餅をつく。
「バカにすんじゃないわよ…っ私がそんな事に気付かないとでもお思い!?私が言いたいのはね!あんたは私が誇る騎士団の副隊長なのよっそのあんたが自分を恥じるような真似は止めなさいって事よ!」
呆けていたナツメは笑いながら聞く。
「家臣の恥は自分の恥とでも?」
「まっさか。あんたの恥はあんたの物よっ自分で責任持ちなさいっ」
「そう。そして貴方は勉強に戻りましょう」
ポンっと置かれた手に私は身を固くする。
や、揶矯………!
捕縛されズルズルと引きずられるのを、ナツメは嬉しそうに笑いながら見ていた。
「璃緒様」
「何よ揶矯」
「私の副官をありがとうございました」
別に、何もしてないわよ。
by 遊 水羽  at 08:30 |  璃緒の日記 |  comment (0)  |   |  page top ↑

陽露月6日目

泣きそうな玖桜を見て自然に口から出た言葉。
「私、玖桜が大好きよ」
私の未熟な心のせいで振り回しちゃって、ごめんね。
優しくて正直な玖桜が大好きだよ。
だから泣かないで笑って?
悔しそうな顔の瑯も、じっと見つめていてくれる揶矯も、林檎をくれたひげ面のおじさんも、気の良いおばさんも
皆みんな、本当に大好き。
この国は私の誇りなの。
皆がいるから私は王女でいたい。
大切な人に笑顔をあげるのは、私でありたい。
だってそれって凄い幸せじゃない?
自由はないし、友達少ないし、豪華絢爛な暮らしなんてしたくない。
愛する人と寄り添って歩く。
そんな奇跡、私には無理だと思う。
でもけど私を守ってくれる人、支えてくれる人、愛してくれる人がいるから、大丈夫。
幸せになりたいけど、今が十分幸せだって気付かせてくれて
ありがとね。
玖桜の頭を撫でながら神に祈る。
神様。
どうか、より多くの笑顔を、皆に。
by 遊 水羽  at 23:59 |  璃緒の日記 |  comment (0)  |   |  page top ↑

陽露月6日目

玖桜が井戸から冷やした野菜を取り出しているのを眺めていると、向こうから少し固い表情の璃緒と、その後ろを寄り添い歩く揶矯が見えた。
「嵐が来た…」
微笑む璃緒と泣く玖桜を見て、仲直り出来たのだとほっとする。
最近玖桜はぼーっとする事が多かったから心配してたんだ。
「揶矯、これは何な訳?」
「知るか。璃緒様に嫉妬してどうする」
知ってるクセに。
「うるせえ。」
確かに、玖桜を元気に戻すのは俺でありたかったけどさ。
その役は俺のじゃなかったんだよ。
まだ、俺は玖桜を支えきれねぇ…のかな。
「揶矯」
「何だよ」
「ちゃんと守れよ?璃緒は俺にだって大事な…うん」
揶矯の役は守る者。
じゃあ俺は…何なんだろう。
守り支える者でありたい。暗い部分を共有して、受け止めて支える。
それが王の盗賊である俺の役目。
璃緒だけじゃなくて、揶矯も、玖桜も、皆。
大好きな人皆を助けたい。
神様。
頑張ってるからさ
どうか、皆を支えるだけの心の強さと広さを、俺に。
by 遊 水羽  at 23:59 |  瑯の日記 |  comment (0)  |   |  page top ↑

陽露月6日目

今日も璃緒様は俺の前を颯爽と歩く。
そんな歩き方じゃ、王女の顔を見知っている町の人々にはバレバレなんだけどな。
美人な嬢ちゃん!白の騎士様!と果物や花を投げてくれる人々を見ていると、お忍びで(全くお忍びではないが)来ている姫の心を察してくれているんだと分かり、その優しさに嬉しくなる。
この国は平和だ。
それを知る度に璃緒や王族の方々の統治の素晴らしさと国民への愛を見つける。
「私、玖桜が大好きよ」
そう言って笑う少女の肩に、どれだけの重責があるんだろう。
「揶矯、これは何な訳?」
「知るか。璃緒様に嫉妬してどうする」
「うるせえ。」
正直な瑯に思わず笑ってしまう。
「揶矯」
「なんだよ」
「ちゃんと守れよ?璃緒は俺にだって大事な…うん」
言われなくても、愛する人は守るさ。
この姫の隣に立つ事は一生叶わないし
その背負っているものを肩代わり出来ないけど
俺の出来る限りで、守るよ。
神様。
どうか、大切な人達を守る力を、俺に。
by 遊 水羽  at 23:59 |  揶矯の日記 |  comment (0)  |   |  page top ↑

陽露月6日目

井戸から冷やした野菜を取り出していると、瑯がポツリと呟いた。
「嵐が来た…」
え?と振り返ろうとすると、突然ずしっと重いものにのしかかられ
「きゃ―っ」
潰れた。
「わ、ごめん玖桜。大丈夫?」
「ばっか、早く退いてやれよ」
「あ…璃緒ちゃん…!?」
瑯に助け起こされながら、心配そうに見ている突撃主を見て私は驚きの声を上げた。
なんて言おう、と考えて言葉に詰まる。
だってこの間のお祭りに来なかったのは私のせい…でしょう?
璃緒ちゃんが王女様だって事に誇りと苦しみを持ってるって知っていたのに
璃緒ちゃんが苦しい事を隠して、一生懸命忘れて、笑ってるって知ってたのに
私はほじくり出したんだ…。
「玖桜っ」
名前を呼ばれ、はっと顔を上げると、璃緒ちゃんが優しく微笑んでいた。
璃緒ちゃんは私をきゅっと抱き締めて
「私、玖桜が大好きよ」
そう言ってぽんぽんと私の頭を撫でた。
うん。私も大好きだよ。
ごめんなさい、ありがとう。
璃緒ちゃんの笑顔は、今日もやっぱり全てを受け入れた強い笑顔で
「うん」
悲しくて、嬉しくて、涙が出た。
神様。
私は巫女としては出来の悪い子ですが
彼女の幸せを私の全霊で願うから。
どうか、彼女に優しい未来を下さい。
by 遊 水羽  at 23:46 |  玖桜の日記 |  comment (0)  |   |  page top ↑
プロフィール

Author:遊 水羽
+ゆとりのオリジナルキャラクター
瑯row 玖桜cou 揶矯yata 璃緒akio
の日記形式で展開します。
空飴風味本舗で描く本編とはまた違った瑯達の世界をお楽しみ下さいv
※キャラクター基本設定に変更はありません。
設定は国などをまとめ次第、空飴風味本舗にてUPさせて頂きます。


=言いたいことをぽつぽつと。=

いらした方はぜひ足跡残して下さいなv
コメント大歓迎です!どうぞゆとりに知恵を…!!

また字間違い等ありましたらご連絡下さいっ
ついでに遊がBLに走りそうだったらどうぞ止めてやってください。
ここだけの話、遊の脳内では最初揶矯×瑯の話でした。玖桜はオマケだったという…頑張れヒロイン笑

ゆとりは文才皆無ですので稚拙な文に不快になられる方は全力でこの場から逃げることをオススメします。

未だにキャラの口調が掴みきれてなかったりorz
日記形式ってのが分かり難いんだ←

このページはリンク不可です。
地道に本舗→別館と足を運んで下さい

更新は不定期になります。
文が完成したらこっそりと更新してます。

ではでは少しでも楽しんで頂ければ幸です(´v`*

最近の記事
最近のコメント
最近のトラックバック
月別アーカイブ
カテゴリー