2008/06/30
今日は久しぶりに快晴。
三区にある喫茶店のテラスでのんびりと過ごしている。
「四人で町に出るの久々ですね」
玖桜がチーズケーキをはむはむと食べながら言う。
可愛いなぁもう。
「そうね、最近ずっと雨だったし。晴れて良かったわ」
私はそう言って、ハーブティーに星砂糖を少しだけ入れて、スプーンでくるくるとかき混ぜる。
仕事も深良お兄様に押し付けたしっ完璧っ
心の中でガッツポーズ。
「仕事は?雨だから色々被害出てんだろ?……深良か…」
そう言って瑯は、セサミクッキーをむしゃむしゃと頬張る。
水を差すなっ良いのよ、あいつは仕事に忙殺されれば良い!
バレンタインの恨み、まだ忘れてないわよ…っ
「…………………」
お菓子を楽しむ手を止め、玖桜は左を、私は右を、瑯は正面をじっと見つめる。
「……?なんだ?」
三人の視線を一身に受け、揶矯はやっと顔を上げた。
「揶矯さんが食べてるの…何?」
揶矯の目の前にある、大きな硝子の器に入っているものをじっと見ながら、玖桜がおずおずと聞く。
「いちごチョコキャラメルアイスパフェあんみつココナッツソースがけアーモンドチップ入りチョコババロアつき」
何やら甘ったるそうな長ったらしい名前を一息で言い切る。
「さっき…ウエイトレスに"いつもの"っつったよな」
「ああっ好物なんだ。喰うか?」
滅多に見せない極上の笑顔で尋ねる揶矯に、私達は揃って大きく首を横に振った。
こういう物を食べて、体重が一キロも変動しないあたりが揶矯よねぇ…
by 遊 水羽 at 19:48 |
璃緒の日記 |
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2008/06/23
「雨が続きますね…」
玖桜のつぶやきに俺は本から顔を上げる。
つまんない?
そう尋ねると少し困った様に微笑む。
「読書も好きですから、つまんなくはないですが…」
ですが?
「璃緒ちゃん達に会えないのは、ちょっと寂しいです」
そう言って、玖桜は読書に戻る。
そっか。
流石の璃緒も雨の日は逃亡を控えるらしい。――…城外に限り、だが。
天露月は、雨で川が氾濫しないよう騎士団のメンバーも各地へ水位調査などに旅に出るらしい。
なので止める揶矯がいなくて大変なんだ、と璃緒の侍女の小麦色の髪の女が言っていた。
そういや小さい頃は、揶矯がいなくなる度に遊び相手がいなくなってふて腐れたなぁ…。
うわっ恥いっ
あの頃を思い出すとおかしくなる。
今は玖桜やテイル、トーマ、錬がいるから、遊び相手に事欠く事はねぇからな。
「どうしました?」
思い出して顔がにやけていたのか、玖桜が興味深そうに見つめてくるので、玖桜に昔の事をちょっと話す。
だから璃緒も好きな奴がいなくて寂しいだろうな、と思ってさ。
遊びに行くなら付き合うぜ。
ナツメや皐月と剣の手合わせをするのも、面白そうだし。
玖桜が不思議そうに呟いたが、その時、雷鳴が轟き、そちらに注意を引かれた為に俺は聞き取る事ができなかった。
ごめん、何か言った?
「え…。ううん。あ、じゃあ次の雨の日は一緒にお城に行ってくれる?」
もちろん、と大きくうなずくと玖桜は嬉しそうに微笑んだ。
by 遊 水羽 at 19:44 |
瑯の日記 |
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2008/06/11
ん―――っ良い天気っ
昨夜降った雨が葉っぱや花びらに付いて朝日を浴びてキラキラと輝いている。
「こんなに天気が良いと外でピクニックとか…したいなぁ……」
テラスでぼそりと呟くと、後ろからぎらりと視線が飛ぶ。
「本日は午前に数学、地理史、国史、経済学、帝王学、法学、音楽、美術のお勉強。午後にヌーブル伯爵主催のパーティーに出席。その後ドルチェ公爵のパーティーに出席。9時頃帰城した後に今度開きます七夕祭の計画を深良様と起てる予定でございます」
聞くだけで食欲が無くなる内容だこと……。
「逃げたいなぁ…」
生まれから逃げるなんて、出来ないけど。
日常も、恋愛も…。
by 遊 水羽 at 08:35 |
璃緒の日記 |
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2008/06/08
………変だ。
そう感じたのは落ちてから1473歩分歩いてから。瑯の主観時間で言えば大体10分くらいだった。
瑯は足を止め洞窟の岩肌に持たれ掛かり、静かに目を閉じて耳に神経を集中させていた。
「音がしない…」
瑯が両腕を伸ばしてもまだあまりある幅と高さを持った洞窟である。人工にしろ天然にしろ、何か生き物の跡があって良いものだ。しかし洞穴内は空気でさえ息を潜めていた。
「これ…どこかに繋がって…るよな?」
洞穴の様に景色が変わらない所では、しばしば進んでいないように感じられる……というのは良くある話だが。
これは……いくらなんでもおかしいよなぁ。
さっきから壁面の凹凸でさえも変わっていないように見えるんだよね。
「…………試してみるか!!」
瑯は腰に下げている道具袋の底から隠してある投剣を取り出すと思いきり振り被り、全力で岩肌に叩き付けた。
投剣はぎぃん…っと鋼のぶつかり合うような高い音が響かせ、瑯の手に小さな痺れを残す。
「ついた」
壁に近付いて良く見ると、小さな切傷が残っていた。真新しいその傷は菱形の様で…楕円の様で…点の様で……そして傷は吸い込まれるかのように消えた。
「…やっぱり!!」
瑯はぺたぺたと壁面を探るが、傷痕はもう跡形も無く、剣で切りつけた事を示すのは岩に叩き付けられ僅かに歯が欠けた投剣だけだった。
「あ――――…捕まっちゃったか…?どうやって逃げ出そうか…」
呟くと胡座をかき、地面に座り込む。
これが奴等の得意な幻影ってやつなんだろう。
歩き回ったって、どうせ何処にも辿り着かない無限ループだろうし…多分今更戻ったとこで、あの穴が見つかるとは思えないしなぁ。
歩き回って疲れたら敵の思う壺だよな、うん今は休もう。
そういえばテイルがこの間、出掛けた時に幻術に嵌まった時の対処法を玖桜と話してて…
なんだったっけ。情報収集も大変だな、くらいにしか思わなかったんだよなぁ…あぁバカか俺。いつも周りに糸を張れってお頭が言ってんのに。
ぶつぶつと独り言を続けていると、ふと視界の端を動くものがよぎった。
「……?」
瑯は顔を上げ、目を凝らした。
気のせい…か?……いや、気配がする。
じっと闇に目を凝らし神経を研ぎ澄ましていると、蜃気楼の様に暗闇がぐらりと揺らぎ、何もいなかった空間に突如、一匹の岩猿が現れた。
岩猿は黒い体を毛ほども動かさず黙って瑯をじっと見つめていた。
なんだか目で何かを伝えている様な気がする。
なんだろう…気になる。
暗闇に浮かび上がるような金色を帯びた瞳だ。縁は少し赤みが挿していて…瞳孔は茶に近い金だ。日に透かしたらトパーズみたいな…気が…する。
あぁ俺、何考えてんだ?今はそんなのより考えなきゃ…いけないことが…あるの…に。
……………眼が離せない………………。
瑯は岩猿の視線に絡み取られたかのように体を軋ませる事すら出来ずに、岩猿の瞳をぼやけた翡翠の瞳で凝視していた。
………あぁゴメン玖桜、直ぐに戻れそうにないや。
ごめんなさい、王様、深良。依頼…ちゃんとこなすから…ちょっと待ってて。
お頭、またどやされちまうな…。幻術対策を怠るなんて…盗賊失格だよなぁ。
…これ……捕まったらどうなんだろ?璃緒とか…動きそうだな…。
頼むから…馬鹿な真似すんなよ……璃緒。
あいつ…俺に引け目があるみたいだし…揶矯がちゃんと止めると良いけど…。
………玖桜………ごめん、玖桜……。
視界がぐらりと傾き、瑯は遠くで炎のように輝く双眸を最後に、意識を手放した。
岩猿は倒れた瑯の脇に立つと、無感動な瞳で見下ろし、ぐにゃりと口の端を歪ませ、笑った。
トーマとテイルの亜人兄弟が経営する[猫]の地下で、玖桜は壁一面にあるトーマの蔵書の一つをパラパラと捲っていた。
コンクリートブロック並みに厚く重た気な本の背表紙には、世界の植物と書かれ、中には丁寧な挿絵と詳細な情報がページにぎっしりと書き詰められていた。
「…………瑯?」
玖桜は本のページを捲る手を止めると顔を上げた。
今の…映像は何?
暗闇を歩く瑯と、手で包む様に瑯に纏わりつく霧…みたいな。
思い出し、ぞくっと体を震わせた。冷や汗が背中を伝う。
あれ…嫌な感じがします……怖い…!
「―――玖桜?」
「トーマさん…」
玖桜の変化に気付いたのか、猫族特有の鋭い聴覚が玖桜の呟きを捉えたのか、トーマは階段上から不思議そうに玖桜を覗いていた。
階段を心配想な表情で降りてくると「どうかした?」と玖桜の肩に手を置き目線で尋ねた。
「トーマさん……瑯が、瑯に何かあったのかも…ううん、あったんだわ……っ」
混乱している玖桜を一瞥すると、トーマは玖桜の手の本を傍にあったベッドに投げ捨て、玖桜の手を取って一階に上がり、玄関の壁掛けから二人分のコートを取ると一つを玖桜に押し付けもう一つに手早く腕を通した。
「ちょ…トーマさん?」
「どうしたぁトーマ」
「テイルさんっ実は…」
騒ぎに気付き隣のキルエのパン工房からトーマの双子の弟、テイルが驚き駆けてきた。玖桜が異変を告げると、納得し頷いた。
「で、お兄ちゃんは何をしようとしてんのかにゃ〜ぁ?」
猫族の象徴でもある猫耳をぴくぴくと揺り動かし、テイルはトーマに纏わりつく。
「……………………城…に。」
「はぁいお馬鹿さん。俺達亜人が王城にアポ無しで乗り込んだって入れる訳ねぇだろぉ?」
「でも瑯を雇ってるのは…うっ」
がしっと首に腕を回され息を詰まらせるトーマをギリギリと羽交い締めにしながら
「だから、ね。なんでアイツラが瑯を使ってると思ってんのさ。後ろ暗い事をあからさまに作りたくないからでしょ?それなのに盗賊と付き合ってるなんて認める訳ないっしょ?」
「……でもっ」
「でもじゃないのよお兄ちゃんっ大体今城に行ったって協力者はいねぇんだぜ」
「………どういう意味ですか?」
引っ掛かる言い方に玖桜が尋ねる。にやっと笑いテイルは答えた。
「璃緒サマ、婚約だかでラーナに向かってんだよ。」
「婚約!?…じゃあ揶矯さんもそちらに…?」
テイルはやっとトーマから手を離すと、「ちゃうちゃう」と言って壁に掛けられている大陸図を指差した。
玖桜はテイルの指先を辿り、顔をしかめた。
「テルダム……北方前線ですね。」
「そ、馬で一週間の距離かな。つー事で俺等に協力してくれるやつはゼ―ロ…って…ちょ、玖桜ちゃん?聞いてる?」
黙々とコートを着だす玖桜を見て声を掛けると、玖桜はきょとんとした表情で顔を上げた。
「はい。十分現状認識しました」
「う―ん。そりゃ良かった。…それでどこ行く気な訳?」
頭を押さえながら聞くテイルに玖桜はやんわりと答えた。
「お城。」
テイルは頭を掻き足を組み換えながら、ため息をつく。
俺の周りにはどうしてこう、猪突猛進型ばかりなんだ……。
「……危険だよ。もう解放されたと言っても君は…」
「亜人の二人が忍び込むよりは格段に安全ですよ―。見つからなきゃ大丈夫ですし」
「…………………来るなって事」と呼吸を整えたトーマ。
「…はい。大丈夫ですっ勝算はありますから」
下を向いたトーマの肩に手を回したテイルが尋ねる。
「…勝算?何する気?」
いぶかし気な視線に挑戦的な笑みで答える。
「実・力・行・使」
走り去る小さな影を見送りながら、テイルは戸口にもたれかかり深いため息を吐く。
「――――――…怖っ」
眠れる獅子を起こした…ってやつか?
部屋に戻ると椅子に座ったトーマが不満そうに見上げてきた。
このお兄ちゃんも、まったく。
「トーマ。役立ちそうな薬草、集めといてよ」
「………?」
テイルはトーマの側の椅子に座り、ぱしっと両手で頬を挟んだ。
「瑯の為に何かしたいんだろ?玖桜ちゃんはきっと瑯の所に行く気だ。怪我をするかもしれない、瑯が怪我を負ってるかもしれない…でしょ?」
「ついて行っちゃ…ダメか?」
トーマの悲壮な顔にテイルが思わず苦笑する。
「だ―め。俺達じゃ玖桜ちゃんも瑯も守れないよ。」
「…………」
「分かるよ、俺だって二人が大好きだよ。…でも亜人の俺達は人間より非力だから、今回の旅には不向き。だから、俺達は俺達の出来る一番良いことをしよう?」
トーマは、分かるよね?と首をかしげるテイルをじっと見つめ、深く頷いた。
「…調合してくる」
「ん、行ってらっしゃい。俺はお頭達に知らせてくるよ」
テイルがコートを取り玄関の扉を開けようとした時、まだ地下へ続く階段の上でトーマがこちらを見ているのに気付いた。
「………………」
「どした?」
「……ありがと」
ほんの少しだけ口の端を上げ、そう言って下りていくトーマを見て、テイルは無言で破顔する。
いつからだったかな。またトーマが笑うようになったのは。
十年前の悲劇。ディアボロスの虐殺。ローディア大陸南東部に位置するディアボロス諸島にいた亜人、千人の内半数以上が、人間達により無抵抗のまま殺された。
……………昔…の話か。
色褪せた赤い光景を、頭を振り消し去る。
やっと掴んだ幸せ。人間達に奪われてたまるかよ…っ
テイルはコートの襟足をぎゅっと首に寄せ、足早に駆け出した。
雪解月の夜は、微かに暖かく、未だ冷たい。
by 遊 水羽 at 14:20 |
GuildWorld -龍皇女婚譚- |
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2008/06/03
目の前には山の様な書類の束。
……これ、何?
にっこりと笑ってシャシャと揶矯に尋ねると
「姫様がお考えになられた天露祭。本当に実現するかは未定、したとしても恐らく時間の問題で来年になると思われますが、その原案及び関連資料、それに関する新しい規定事項に…」
わ、分かったわ。もう良い。
「祭運営に関して騎士団も関わっています。…ので、私にも目を通してサインしなければいけない資料がその山の中に。」
つまりちゃっちゃと終わらせろって事ね。
「はい、お願いします。助かります。」
あぁ…軽々しくお父様やお兄様の前で祭をしたいなんて言うんじゃなかった…。
まさか実現…それも私が…することになるなんて。
だからお兄様、話が出た時に意地の悪い笑みを浮かべましたのね。
…良い教訓だわ。
私は深いため息を吐く。
深良お兄様…私を止めなかった事、公開させてやりますわ…っ
バレンタインの恨みも併せてお返ししてやりましょうっ
by 遊 水羽 at 23:15 |
璃緒の日記 |
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2008/06/01
カッとナイフが一直線に飛び、壁に突き刺さる。
ナイフ投げ100本…終了っと。
「瑯坊…一つ良いッスか?」
何?と俺は首をかしげる。
「昔みたいに外で練習してくだせえや」
目の前には朝食に使った食器を拭くペド…とあちこちに投げられたナイフ。
ち…っことごとく避けやがって。
「瑯坊にはまだ無理無理…ってうひゃあっ」
しゅっと風を切り裂いて俺の手から放たれた剣はペドの右手の甲を薄く裂き、その後ろの壁に突き刺さった。
よし、やっぱり動くものに当てる練習はペドに限る。
by 遊 水羽 at 01:44 |
瑯の日記 |
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