草萌月31日目

今日も王国は平和だ。
「揶矯―――っこの間の旅のお土産、キムチっていう辛い漬物だぞ―っ」
俺は辛いものは食わん。つうか王宮に入るなって何度言えば分かるっ
「揶矯さん……ぼぉっとしてたら道に迷っちゃったんですけど…パンナさんの果物屋さんってどこですか?」
ここを右に…というか、ここ第一区なんですけど…どうやって入ったんですか?
「ちょっとっシャシャ見なかった?」
シャシャ女中頭なら先程東庭園付近の回廊を…って璃緒様、逆ですよ。また逃げてるんですか貴方は。
「おぉい揶矯ぁ。色町行かねぇ?」
誰が行くかこの馬鹿っ。今、朝の10時だって分かってんのか!?
「揶矯君、ワシの饅頭しらんかね?」
存じておりません、大佐。…手に持ってるの…みたらし団子の串……ですか?…………13本…。いえ、何でもありません。
「おい揶矯、我が愛しの妹姫はどこにいる?」
おそらく西側回廊を逃走中です。
「あ、隊長―っ今日の仕事っす」
ん、認識した。いつもありがとな、ナツメ。どうした?皐月。
「あの――…これもお願い出来ませんか?」
ナツメ、皐月の礼儀正しさを見習え…って、何だって?この仕事バルドスのだろう。は?…色町?…あっの馬鹿!!
「騎士様っすみません、その木に掛かってるシャツを取って頂けませんか?」
もちろんです。…はい。いえいえ何でも無いですから。…あの、手を離して頂けますか?
「おぉい騎士様じゃねぇか。今日はあの美人な嬢ちゃんは一緒じゃねぇんかぁ?」
…………………門番のクセに自分が仕えてる国の姫様の顔を知らないのか…コイツは。
「揶矯様っ外に出るなら、璃緒様が町へ出てないか確認して下さいましっ」
わかりましたシャシャ女中頭。いえ、気にしないで下さい。もう日課ですから。
「だぁれだっ」
取りあえず後ろから目隠しもしないで抱きつく奴は、俺の経験上一人だけだぞウィスカ。
「誰だと思うかいっ?」
って娘と一緒になって何やってるんですかキルエさんっ周りの女性の視線が……っ
「ああっ揶矯の白大将じゃないっすか。今日は何の御用で?ぁ、瑯坊っすか?愛っすね―瑯坊ったら可愛がられてるっすねっ。え、違う?璃緒様?ひゃ―白大将、相変わらずご苦労なこって!いやいやいやいや、不毛だなんて思ってないっすよ。…いやいや思ってないっすからっうひゃひゃひゃっ」
―――――――……切る…っペドなら切っても罪にならないっ…多分っ
「揶矯じゃねぇか。相っ変わらず暇ですね―騎士様は。」
暇じゃねぇよ。帰ったら仕事溜まってんだよ。
「………………」
トーマ……いい加減テイルの背に隠れないでくれないか?
「おぅ!揶矯じゃねぇか。璃緒の嬢ちゃんなら来てねぇぞっ」
…そうか。ありがとうございます、お頭さん。
「ってぇ―――っ何で殴んだよぅ」
うるさい。俺から擦ろうとするからだ。まだまだ錬には負けねぇよ。
「おぉっ揶矯、良いところに。璃緒=エルを見てはいないかな?」
恐らく…もうシャシャ女中頭に捕まっている頃かと。シラクかラティが協力してなければですが。はい、探し次第全様の部屋にお連れします。
「え?璃緒様?いいえ、今日は私は夜の担当ですから、まだお会いしておりませんわ」
そうか。頑張れよシラク。
「………え?い…っううん知らないですよ?知らないですって…ああぁそんなに顔を近づけないでぇっ」
そっか。騎士宿舎に隠れてるんだな?ありがとうラティ。いつもお疲れ様。
「璃緒様――――――――っ来ちゃったっすよ隊長。」
来ちゃったって、何璃緒様に手を貸してるんだナツメっ
「たっ隊長―――――っ僕は止めたんですけどっけどっ」
分かってる。分かってるよ皐月。璃緒様に逆らえないことくらい身に痛〜い程染みてるよ。
「おっ遅いぜ揶矯ぁ」
貴様…バルドスっはここで酒を飲んでやがったかっ
「揶矯なんかほっとけって。それよりもう一杯どうだ?」
瑯…っ未成年が酒を飲むなっ
「あ、お邪魔してます…」
玖桜様…っ貴方まで何してるんですかっ
「ちょ…腕を離してっ痛いっ…きゃーっちょっとっ何抱えてるのよきゃ―――っ」
うるさい。今日ずっと探してたんですから。王がお呼びなんですよ。
これから王に璃緒様をお連れして…、アイツラを部屋から追い出して…。
やることはたくさんだ……。
うん、今日もいつも通り平和だ。
by 遊 水羽  at 21:55 |  揶矯の日記 |  comment (0)  |   |  page top ↑

王国設定

 [グラシア王国]
ローディア大陸北東に位置する王国。
北西部にシシル山脈や高地があり、南部はミルー海に面している。
シシル山脈には山賊が住んでいる。優秀な武人集団で王国も手を焼いている。
王城ルクシェブルクのある首都ガリア、音楽の都ラーナが有名。
王都は第四区画にまで分けられ各々を厚高い壁と門で区切っている。
第四〜二区画は誰でも通行自由だが、第一区画は許可が無ければ一般人は入れない。
第一区画:王族、大佐、騎士隊長、近衛兵団団長、上級近衛兵、近衛千人隊長、上流貴族。王宮はここ。
第二:貴族、百人隊長、騎士、騎士見習い、下級近衛兵、大商人、神殿関係者。神殿、騎士詰所はここ。
第三:商人、一般人。市場、宿はここ。
第四:盗賊ギルド、貧民、娼婦など。酒場や花町はここ。
交易も盛ん。主な輸出品は羊毛や高地野菜、音楽楽器など。
 [名前と宗教]
名前が煌語の人は太陽神宗、ルクス語の人は月光神宗を信仰。
しかし基本、ごちゃまぜ。無信心者多数。
異国から来た神様よりも、生きた伝承、"龍神の血を引く王族"の方が崇拝対象ではあるらしい。
苗字はどちらもローディア語である。
また煌帝国の人の名前は煌語、バルディウス公国の人はルクス語である。
ルクスとはグラシア王国やバルディウス公国が出来る以前、煌帝国とローディア大陸で争っていた大国。
 [お金]
お金の単位はクナ(円)。
 [暦]
一年(365日)は30日/12ヶ月と5日で数えられ、暦は1月から"降神月,深雪月,雪解月,花舞月,草萌月,天露月,繁草月,陽露月,散花月,金狼月,睡狼月,神結月"。
神結月後の5日間をヤ・ディル・カシュム(神の婚礼)と呼び盛大に祝う。
※本当は2/1は深雪月2日ですが、わかりにくいのでギルド日記では現在と同じ(深雪月1日)にしてあります。
年数はグラシア暦。
 [王族]
翡翠の眼の金色の龍を捕らえ血を受けたという伝承がある。
そのためか王族の人間のみ翡翠に近い瞳の色をしている。
初代国王がギルド制を敷いた。
多宗教だが、主宗教は太陽神宗と月光神宗。
王族はこのどちらかに入宗するため、国王になった時のために二宗派流の名前が付けられる。(一宗教に権力を固めないため)
 [ギルド制]
全ての国民はギルドという同業者組合に属している。
大抵の国民が親の仕事を受け継ぐが、18歳(成人)まで転職が可能である。
ex)※騎士
正式名称は"グラシア王国龍騎士団"。現存するローディア大陸最強の正規騎馬兵団である。
王族の護衛、兵役、主要都市や国境の防衛が仕事。
近衛兵団と騎士団に分けられ、国王が直接指揮・管理するのが近衛兵団、大佐が指揮・管理するのが騎士団。
騎士は総勢三百人程度で主に貴族出身。(揶矯は物凄く例外)
近衛兵団は貴族、庶民ごちゃまぜで総勢一万程度。
他国と戦をする時は、各諸公の領地を守る兵団も集まり、総戦力七万強。
騎士団は国王に仕えているが、独自の法がある。
騎士は第二区画にある騎士宿舎(第三連まである)で全員寝泊まりしている。自炊式だが主に騎士見習いの仕事。騎士宿舎は百人隊単位で区切られている。
 ※巫
神への祈りや舞い、歌を日々修練している。
装飾品は儀式の時以外身に付けてはならず、質素倹約。酒は神への第一級奉納品なので、厳禁。
太陽神宗と月光神宗に分けられる。
ちなみに太陽神がフィーネ(女神)、月光神がグリーグ(男神)。
若干争いは絶えないものの、二宗派の関係は平和なものである。
ヤ・ディル・カシュムの祭での舞踊が一番重要な仕事で、両宗派から一人ずつ代表が選ばれ、町の中心の円形舞台上で王族や国民の前で舞う。
皆、婚礼の舞手になろうと日々修練を欠かさない。
 ※盗賊
盗む事が仕事と法律で定められている。金品はもちろん情報を盗む事も。貴族などに頼まれる事も多い。
因みに盗まれたものは1ヶ月探して見つからなかった場合、盗賊ギルドのものと見なされる。
盗賊以外が盗みを働けば死刑だが、盗賊に限り1ヶ月捕まらなければ無罪。
仕事と盗賊は特AからD級まで五段階にクラス分けされていて、A級以上の仕事はA級以上の盗賊以外担当してはいけない。
3グループに分かれ、各々を頭が束ねている。
 [龍神の巫女]
二十年に一度、"龍神の力"を持った子供が生まれる。
その時、前巫女の力は消えるらしい。
巫女と言われてはいるが、男に力が宿る事もある。
強大な龍神の力をコントロール出来るのは王族直系の者だけで、その者をコトーラル(調節者/調整者)と呼ぶ。
どうして生まれるのか、力の内容全てが未だ解明されていない。
 [亜人]
"人で無いもの"の意。
人間の様に二足歩行、会話もするが、外見的に際だった特徴が見られる為に分けて呼ばれる。また腕力が総じて人間より低く、身長が小さい(大きくて165cm)。
ディアボロス諸島を中心に生活。現国王が非常に差別撤廃に尽力している為現在は薄れているが、十年前までは酷い差別を受けていた。
亜人差別は"ディアボロスの虐殺"として有名。
ex)※族:頭に猫耳、お尻から尻尾が生えていて、夜目や耳が非常に良い。また脚力がとても強く、一跳躍で10mは軽々と跳ぶ。
 ※魚族:足が魚の尾である為、陸上ではあまり生活したがらない(歩くと尾が擦れて痛い)。
しかし水中にずっといれる訳ではなく、最長で五時間程。
水中を秒速20mで泳ぐことが出来る。
 ※小人族:ドワーフやモグラ族とも呼ばれる。鼻がとても良く、土の匂いで今どこにいるか分かる。
手が強く大きいので鉱山掘削に適していて土木系の仕事についている。その為、町で彼らを見ることは滅多に無く、洞窟で細々と生活している。


 [煌帝国]
ローディア大陸西方に広がる砂漠の国。グラシア王国のシシル山脈を挟んだ西側に位置する。
オアシスで農業が行われるものの、それで全国民に穀物は行き渡らないので、盛んな機械産業で、砂漠で取れるガティアという鉱石(金色を帯びた黒で、軽く丈夫。鎧や剣に使われる)を売って穀類を買っている。
小国が戦乱の後にまとまって出来た為、今でも反乱は多くある。
その為に厳しい圧政が敷かれたりもするが帝王により良くまとめられている。
またローディア大陸一の重装歩兵を持ち戦に長ける。
帝王にはその時一番強い将軍がなる。
太陽神を国宗とする。


 [バルディウス公国]
ローディア大陸北西に位置する魔術の国。
門閥貴族達の共和制でまとまる。
天然の岩間を利用して作る砦様式の家が定番。
基本的に貴族間での抗争を常に行なっている。
by 遊 水羽  at 14:15 |  設定 |  comment (0)  |   |  page top ↑

深雪月23日

「ねぇ、どこいくんですか?瑯」
横を歩く瑯に尋ねると、秘密――、と笑いを含んだ声が返ってきた。
昼下がりの大通りを二人でのんびり歩く、なんて凄く久しぶりで自然にわくわくと胸が浮き立つ。
そのまま特に意味も無い会話を続けながら歩いていると、向こうから近衛兵士の三人組が歩いてきた。
昼間っからお酒を飲んでいた様で少し足元が覚束無い雰囲気。腰に下げた剣帯をカチャカチャと鳴らせながらふんぞりかえって歩いている。
「近衛兵…」
うぁ……やだなぁ。紫黒の制服に胸元の紅いバッチとか、鈍く光って嫌な感じ…です。
そう思って視線をずらす。
当然ながら、一年前に神殿から逃げ出し、力ずくで捕らえられそうになった玖桜は、近衛兵士にあまり良い印象を抱いてはいない。
傍で買い物していたおばさんが、騎士様とは大違いだよ、とぼやいた。
全くだと思う。
もちろん近衛兵士だって、飴をくれたり子供と遊んでくれたりと面倒見の良い気さくな人や、しっかりと町の警備をしている真面目な人もいる。
しかし近衛兵団は、騎士団より規律も入団条件も緩いので人数も多ければ、近衛兵の帯剣特権や権力を悪用するああいう輩も多い。
国王ももちろん対処しているのだが、そういう馬鹿は何度駆除しようと涌いて出てくるもの…と以前ダンテお頭が太い眉を寄せながらぼやいていた。
「止めて下さいっ」
空気がざわめき悲鳴があがる。見ると、近衛兵士の一人が花屋の娘に絡んでいた。
周りの人々は、止めようと駆け出そうとするも、他の近衛兵士が剣帯に手を置くと躊躇し、距離を置き成り行きを見守っている。
どうしよう…っ剣は大して怖くないけど、あの女の子を人質に取られたら…やりにくいっ
咄嗟に左手の瑯を見ると、舌打ちして足を一歩踏み出すが、ふと何かを閃いた様に微かに上を見上げ、満面の笑顔でにんまりと玖桜を振り返った。
「……?」
「ね、玖桜。俺がどこを目指してたか…知りたい?知りたい、よね?」
「知りたいですけどっ今はそんな――…ひゃっ」
助けてあげよう、と言おうとすると、瑯は玖桜の小さな頭をくしゃくしゃと掻き撫で、「着いておいでよ?」と言うと、近衛兵士の方へゆったりと歩を進めた。
近衛兵士の一人が近づいて来る瑯に気付き、剣を抜き放った。
「何だぁ貴様。ガキは大人しくママんとこ返んなっ」
唾を吐きながら叫ぶ男に、瑯はにこやかに近付く。
「や―だなぁ、お兄さん。こんな16の子供に喧嘩売らないでよ」
「うるさいっ」
喚き、顔面に剣をつきつける近衛兵士を冷やかに見つめ、口の端をあげ、そして視線を近衛兵士の胸元に落とす。
「お兄さん…良―いもの持ってるね。何て言うんだっけ、近衛証?それがないと、もう近衛宿舎に入れないんだよね…」
「何言って……」
「それ、頂戴?」
そう言うと、流れるように近衛兵士の眼前に迫り、一瞬で近衛証なる紅いバッチを右手に収める。
「瑯…っ」
何やってるんですかっ!?
「…あっ」
「おい何やってるっ」
驚き迫ってくるもう一人の近衛兵士と、女性に絡んでいた近衛兵士が振り向き、瑯に近付いてくる。
「お仕事…かな?」
笑いながらも鋭い光を眼に宿し、近付く二人にも詰め寄ると、二人の胸からも素早くバッチを掠めとる。
「このガキ早えぞ!!」
瑯の動きに付いていくことが出来なかった三人は、酔いが冷めたか、瑯を素早く囲み、静かに剣を構えた。
集中してる……っ
剣から殺気と闘気が鋭く放たれている。
どうするの……瑯。
中心にいる瑯を見つめると、瑯はにこやかに受け答え、構えた。
「玖桜っ受け取れっ」
「え、はいっ!!……えぇぇ!?」
勢い良く瑯の手から放たれた三つのバッチは綺麗な弧を描いた。
玖桜はそれを反射的に全てキャッチする。
「貴様っ仲間かっ」
近衛兵士が注意を玖桜に向けた隙を抜い、瑯は円の外へと出て、そのまま玖桜を追い越し駆け出す。
……え?ちょっと待って。
暫し玖桜は思考を停止する。その隙に近衛兵士達が駆け寄ってくる。
――――逃げなきゃ!!
「きゃ―――――っ!」
「あ、待ちやがれっ」
玖桜は反射的に身を翻し、その場から逃げ出す。
前方にいるはずの瑯は人混みを軽いフットワークで縫うように進み、直ぐに姿が見えなくなった。
あぁこれ、どうすれば良いんですか?捨てちゃダメ?ダメなの瑯っ!?
でも捨てても、あんなに怒ってたらやっぱり許してくれないですよね!?
じゃあやっぱり持ってるべき?どうなのその辺っ
脇道に駆け込むと、足の速い細身の近衛兵士が傍まで迫り、剣を振り上げた。
「うらぁっ」
「わっ」
振り下ろされる白刃を紙一重でかわすと、身体を反転させ、突っ込んでくる近衛兵士の腹に膝を叩き込んだ。
「ぐえぇっ」
「ごめんなさいっ」
近衛兵士は腹を抱えて跪く。その顔に玖桜が間髪入れず蹴りを放つと、近衛兵士は鼻から血を流しながら地面に伸びた。
「あの、ダンテお頭達から、一撃で満足せずちゃんと叩きのめせって教わってるんです、だからその…ごめんなさいっ」
伸びた近衛兵士にとりあえず謝り、後ろから足音が聞こえるので、また駆け出した。
「瑯……どこだろう……。」
盗賊長屋に帰れば会えるだろうけど、そうすると、まずは追手を片付けなければ。
「見つけたっ」
「ひゃあっ」
振り向くと、長身の近衛兵士が猛然と突っ込んでくる。
ちょ、怖いからっ
玖桜は弾ける様に駆け出し、左手に現れた階段を駆け上がる。
「はぁ――っはっはっ追い詰めたぜ嬢ちゃんっ」
「ドンソン!!」
階段の頂上にはドンソンと呼ばれた先程女性に絡んでいた大柄な下っ腹の出た男。
ドスドスと階段を降りて来るが、玖桜は気にせず駆け上がる。
「ひゃっはぁっ捕まえたぜ……え?」
玖桜を捕まえようと勢い良く伸びてきた手を掴むと、そのまま相手の勢いを利用して投げ飛ばす。
「ドンソ―――――ンッ来るなあぁぁぁぁぁっ」
「スカ――――――ァッ受け止めろぉっ」
巨体は止まる術など知らず、重力に従い勢い良くスカーと呼ばれた男にぶち当たり、二人共々揉んどりうって階下へ転がり落ちていく。
「これでもお頭に毎日鍛えられてるんですからっ舐めないで下さいっ」
落ちた二人はもう聞いてはいない。
……舌、噛んでないと良いんですけど。
腰に手を当て、ぷぅっと息を吐くと、パチパチと後ろから軽い音が。
「瑯っいつから?」
振り向くと屋根の上に座って瑯は拍手をしていた。声を掛けられ、「よいしょっ」声と共に飛び降りると、
「ずっと見てたよ。玖桜は合格。」
「………え?」
見てたなら助けて下さい。しかも脈絡がわからないのですが。
「…何が、合格ですか?」
そう聞くと瑯はにんまりと目を細めて楽しそうに玖桜の手を指差した。
「……?」
玖桜がいぶかしげに瑯の顔を覗き込むと、瑯は満面の笑みで「開けてみてっ」と返した。
…近衛証に何か……
「……え!?」
手を開くと、近衛証バッチがあるはずが、そこには一枚の小円の木のバッチが。
紅い焼き印で、中心に鎖に繋がれた鷹、その上と周囲に緋鷹とBlood-Red-Hawk(血染めの王者)の文字が描かれていた。
「"札"だ……っ」
札とはグラシア王国中に三つある(更に細かく分けられる時もあるけれど)盗賊ギルドの仲間を見分ける印。
これがないと会合に参加したり、Bランク以上の仕事をすることが出来ない。
生まれながらに盗賊ギルドに居る人や、正式に転職した人は皆持っていたけど、玖桜はまだ正規に届け出てはなく、璃緒の計らいで巫と盗賊の二つのギルドに名を置いている特例だった。
嬉しい……っ
驚いて瑯を見上げると、瑯は優しく微笑み返した。
「気に入ってくれた?今日はこれを渡したかったんだ」
「うんっうん、うん…っ凄く嬉しいっ」
玖桜はこくこくと首を痛く成る程大きく縦に振った。
瑯はそれを見て、良かったっ、と更に目を細めて笑い、玖桜の頭をくしゃくしゃと撫でた。
「もっと早くあげたかったんだけど、ギルド内でまだ早いって意見と仲間に入れても良いだろうって意見で別れたんだよね」
錬なんか心配性だから、危険だ早い、の一点張りでさ―っと軽く笑いながら階段に腰を下ろすので、玖桜も習ってちょこんと座る。
「お頭も渋ってたんだけどさ、玖桜も大分強くなってきたし、一人で追手から逃げ出せたら、認めてやるかって…。それで今日に至り、見事合格!」
わ…何か胸の奥がじわじわする…っ
そう言うと、瑯は笑って玖桜の額にキスをした。
「盗賊の世界へようこそっ」
私、やっと大好きな人達と同じ場所に立てたんだ………!!
瑯の笑顔に釣られる様に、私も自然と顔が弛んだ。
それからひとしきり声を上げて笑って、瑯が「帰ろうか」と手を差し出してきた。
その手を取りながら、ふと浮かんだ疑問を口に出す。
「そういえば、近衛証はどうなったの?」
受け取った時は、確かに紅いバッチが三つ、手の中にあったはず。
玖桜を立たせながら、瑯は少し得意そうに教えてくれた。
「近衛兵士から逃げ出して、玖桜の横をすれ違った時、だよ。気付かなかった?」
そこまで言うと、あぁ忘れるところだった、とポケットから三つの紅いバッチを取り出し、下で伸びている近衛兵士に向かって放り投げた。
「あの一瞬で……」
全然気付かなかった…。
同じ場所に立てた、とは言っても、まだまだ瑯のいる場所は遠いんだなぁと実感して、ため息の様な笑い声になってしまう。
ん?と先を歩き振り向く瑯に「何でもない」と答えて、隣に立った。
こっそりと右手に握られた札を見つめ、強く握り締めた。
早く近付きたいな、と思いを込めて。
by 遊 水羽  at 20:39 |  玖桜の日記 |  comment (2)  |   |  page top ↑

龍皇女婚譚

王都ガリアから南西に30km、そこに音楽の都ラーナがある。亜寒冷地帯のガルシア国において唯一の温暖地帯である為にリゾートとしても人気の町で、旅人も良く訪れ吟遊詩人や大道芸人など芸術面でも有名な港町。またガルシア国の第二級貿易港である。
そのラーナへ続く街道を二台の馬車とそれを守るように周囲に30の騎馬とそれに乗った騎士が併走していた。
後方の馬車には多くの服や宝石などが詰め込まれ、前方の馬車の中には薄黄緑のワンピースに濃い緑の刺繍入りリボンで腰を縛るだけのシンプルなドレスに身を包み、窓から外を走る騎士に話しかけている黒髪の王女と王女付きの女中が二人、大人しく(王女だけは彼女にしては大人しく)座っていた。
「バ―ルド―ス。いつになったらラーナに着くのよ。」
バルドスと呼ばれた刈り込まれた墨の様な黒髪に隻眼の偉丈夫は器用に足だけで馬を操り馬車に近づくと、窓から身を乗り出さんばかりの王女に彼にしては最大限の敬意を払いながら頭を掴み、ぐいと馬車の中へ押し込んだ。
「もーう少しだからちゃんと大人しく馬車で寝てろよ―姫さん」
璃緒は手を払い退けると、無礼への叱責もひとまず、膨れ面で矢次早に質問を続ける。
「もう少しってさっきからそればっかりだわっ一体いつ着きますのよっ」
周りの騎士達は、普段なら無断で姫君の体に手を触れる罪深き輩など問答無用で切り捨てるのだが、彼が長旅の王女の退屈を紛らわし、いなす事で旅が滞り無く進み、自分達も他に気を紛らわされる事も無く仕事に励めて内心ありがたく思っている訳なので強く言うこともできず、何より王の信頼厚い騎士隊隊長の一人な訳だし、当の姫が特に気にしていないので敢えて注意する事も無く、知らぬ存ぜぬと警護に没頭していた。
「ねぇってば。後何分?何秒?何歩で着くのよ―っ」
「そーだなぁ…姫さんが大人しくしてたら早く着くんじゃねぇか?」
バルドスがそう言うと璃緒は大きな目をパチパチと瞬かせた。
「あら、貴方信心だったの?それじゃあまるで神様が助けてくれるみたいじゃない」
「まさかっ俺は何時だって自分の力を信じてるぜっ」
璃緒はそう言って馬上で力瘤を作るバルドスを呆れ顔で眺めながら「そうよねぇ」と呟いた。
「貴方は見えない偉大な力を信じてる様には見えないわねぇ…。…ねぇ、じゃあ龍の力は信じていて?」
またも身を乗り出しそうな璃緒を左手で押し込み、右手で頭を掻きながら
「龍っていやぁ…あの孃ちゃんだろ?目の前で見ちまってるからなぁ…あの孃ちゃんに力があるのは確かだろ。でもあれが龍神の力かっつうと、そう断定はできねぇな。あの孃ちゃんが特殊体質なだけかもしれん。龍がいた…いることは信じるが、奴等が人間に力をくれたっちゅうのはなぁ…」
ブツブツと疑念を呟くバルドスに璃緒は一瞬困った表情を見せたが、楽しそうに笑った。
「龍神は我が王家の創世記にも載ってるのよ?龍神を疑うのは王家非難と同位なのではなくて?王族を守る役職に居る人として、どうなの?」
「構わなねえなぁ」
バルドスはふんと鼻息を出しながら答えた。
「あら…王家はどうなろうと構わない?」
自分の身を守る人から、お前なんかどうなろうと知らない、と言われているのだが、璃緒はひたすらに笑顔だった。
「あぁ。俺ぁ王家に仕えてんじゃねぇ、全に惚れて騎士になったんだ。だから俺の命をやる相手は全って決まってんだよ」
「…お父様に……。」
グラシア王国の多くの少年の憧れの的であるグラシア王国龍騎士団の騎士隊長とは思えない発言である。
自分の立場を気にせず自分を貫く所が、父の信頼を獲得したのだろうか。
呆れるべきか尊敬するべきか…璃緒は苦笑するのみだ。
「おうよ。だからぶっちゃけちめぇと、今回の仕事は俺ぁどうだって構わねぇ」
その言葉には流石にかちんときて言い返す。
「私はどうでも良いと。…もし私が誘拐されて死んだりしたら、お父様は悲しむでしょう。心は守る対象ではありませんの…?」
「もちろん守るさ、だから今ここに居んだよ。でもよ…人間の力にゃ護れるもんが限られてんだよ」
璃緒は座席に座り直し、続けなさいと手を振る。
「だから最優先は全の命だ。生きてりゃいつか必ず傷は癒える…生きてりゃな」
そういえば…とバルドスの横顔を眺めながらふと思う。
私はこの男の出生を知らない。
噂では戦場で父が見い出し、稀に見る出世を遂げたとか…。バルドスと言う名前もその時父が与えたものだと聞く。
父の信頼を最も得ているのはこの男だと璃緒は思っている。王の政治の補佐をする執政官のハトラー=トルクスタンや騎士隊大佐である千隼=ガルディクスもちろん王の信頼厚い人物なのだが、父はバルドスには信頼以上の何かを持っていると見ている。
…もっと親友に持つような温かく柔らかな感情を。
父がそんなにも想う人物とは、一体何者なのだろうか。
窓に頬杖を付きじっと見ていると、視線に気付きバルドスはにぃと笑い、目を細めた。
「何だぁ?んなにじっと見て。惚れちまったか?」
璃緒はかくっと頬杖から落ち、数瞬言葉を失う。
その様子を見てまた、バルドスはくっくと喉を鳴らした。
「………な…っ突然何を馬鹿な事を…っ」
バルドスは待て待てと手の平を挙げる。
「まぁ気持ちは分からなくもねぇ。お気に入りの揶矯が北方の砦の様子を見に行っちまってつまんねぇ時に、俺みてえな良い男と一緒に旅してりゃあなぁ。心も揺れ動くだろうや、嵐ん中の小舟みてぇにな。姫さんの目は腐っちゃいねぇ。寧ろしっかりとした選択眼が在るじゃねぇか、安心安心。」
「安心って…」
「他の事に気を取られて、グラシア王国に悪影響を及ぼすような男を選ぶ事はなさそうだなぁ…」
「…………………っ」
突然この旅の本質に迫る言葉に、予期していなかった璃緒は瞬間言葉を失いそして、激怒した。
バルドスの無礼な言葉にではなく、その言葉に直ぐに切り返せなかった自分にだ。
バルドスとしては、他の事とは揶矯の事を指しての発言だったのだろう。日頃の璃緒の揶矯への固執を見ていれば、そんな言葉も浮かぶだろう。しかし璃緒はそれは瑯の事を言っているのかと勘違いしてしまった。一瞬の躊躇、それが許せない。
璃緒にとって今回最も大事な事は瑯の居場所を探る事である。最初は結婚はどうにかして諦めさせるか、持参金の良い方と結婚しようと思ってしたが、場合によっては…瑯の情報を得られるなら持参金なんて問題ではない。どんなに下劣な人間であろうと、自分の身で代わりになるなら迷うことなく差し出したいと思っていた。
心では。
私だって分かってるわよ……っ
頭ではそんなことは出来ないと璃緒は分かっていた。王女として、璃緒は私情に振り回される訳にはいかない。
どんなに大切な人でも、国民全員には代えられない。人の大切さは数じゃない、そんな事は分かっていた。たった一人だって不幸な国民を作っちゃいけない。
でもそんなの理想論だわ。
国が成り立つには、多くの民に掲げられなければいけない。王とは掲げられるものだから、民無き地に国は出来ない。
だから王が、王族が守るべきは民。より多くの民に幸せと安らぎを…それが王の使命。
だから…王なら例え瑯の命が懸かろうと不利な条件に身を置かないでしょうね。
瑯は……民に分類されないし。
璃緒は強く目を閉じた。
……でも、私は?
頭では分かってる。分かってるけど…っ
目の前で瑯に刃を突き付けられたりしても、王女としての判断が下せるだろうか?
私は――…
璃緒はスカートを握り締めた。
私は、自信ない………。
「バルドス……」
「なんだ姫さん…?」
急に空気が変わった璃緒を、バルドスと二人の侍女が心配そうに見つめる。
「疲れたわっ馬車はまだつかないの!?」
ぱっと顔を上げた璃緒は、いつもの璃緒だった。その強い目を見て、侍女達はほっと胸を撫で下ろす。
まだいぶかし気に見つめるバルドスに正面から向き合う。
「は・や・く」
バルドスは睨むように視線に答えた。
「……後、一時間もすりゃ見えてくるはずだな」
「そう…じゃあ」
視線を受け止め受け流しつつ、璃緒はふわりと微笑んだ。
「一時間で到着するようになさい」
「姫さ…」
「コレはお願いじゃなくて、命令よ?」
好きにしてると言っても、やはりバルドスは騎士の一人。命令と言われるとあからさまに反抗する事も出来ず、ぐうと言葉につまったバルドスは、諦めてため息を吐くと、片手を上げ御者と騎士達に足を速めるよう伝えて、馬車から離れた。
離れ様に璃緒に「いつまでも誤魔化せると思うなよ」と、捨て台詞を吐いた。
やっと視線から逃れられると、璃緒は深々と椅子に持たれ掛かり、目を瞑った。
分かってるわよ…。

馬達の功労により、見事一時間で璃緒達はラーナにある真白きサラギ城に辿り着いた。町の人々は上等な馬車と、それを守る騎士達を見て、何事かと驚き見つめていた。
城には先に来て、女中の手配やらパーティーの用意やらを一手に引き受けていた侍女頭のシャシャと、サラギ城主で元騎士隊大佐でもあった齢八十の白髪の老紳士、クルーガー公爵が出迎えた。
公爵に手を取られて城内に入って行く璃緒を横目で見つつ、騎士達に身辺警護の配置を命令していたバルドスに、璃緒は振り返り立ち声を掛けた。
「もう一つ命令を忘れてたわ」
バルドスはぞんざいに振り向いた。
璃緒はその場から一歩進み出て、全ての騎士に自分の姿が見えるように立った。
「璃緒=エルト=グラシアの名において命じます。」
璃緒は一呼吸置き、全ての人々が、そしてバルドスが璃緒に集中しているのを確認し、言葉を続けた。
「グラシア王女を守りなさい。私がグラシアの姫として誇りを持ち続けられるよう、細心の警護を。」
「御意っ御心のままにっ」
ばっと人々が一斉に胸に手を当て跪付き頭を垂れた。
それを見て、璃緒はほっと息を吐き、心の内で自虐的に笑った。
これで私は戻れない…。
璃緒は皆に顔を上げさせ、それと、と不敵な笑みで続けた。
「グラシア王国龍騎士団としての誇りと礼節を持って、これから来られる客人には、ここがグラシアだと教えて差し上げて下さいませね。」
人々は数瞬目を瞬かせ、「御意っ」と笑顔で応えると、意気高く各自の持ち場に散って行き、璃緒もクルーガー公爵に手を引かれ、城内の寝室に向かった。

シャシャが侍女達をこき使ってドレスやら宝石やらを出したりしまったり、明日の王女の戦いの為に忙しく走り回るのを、璃緒はソファーにゆったりと腰掛け、眺めた。
戦いは、明日。
決めたわ…私は民も瑯も犠牲になんてさせない。
ここに深良お兄様が居たら、欲張りだと言うかな、と思い当たりくすりと笑った。
「どうかされました?姫様」
「いいえ、何でも無いわ。」
上手くやれ、私。
大切な人達を守れるように。
王女の誇りを失わないように。
窓の外を見ると、大きなオレンジの光が海に沈み込み、海を赤く染めていた。
……戦いは、明日。
by 遊 水羽  at 20:36 |  GuildWorld -龍皇女婚譚- |  comment (0)  |   |  page top ↑

盗賊と龍

翡翠の瞳 金の龍 伝説の龍の長
龍を引き連れ 人界の歴史に牙を立てた
嘆きと恐怖の不協和音
断ち切る為に 少年は剣を取った

運命の糸が紡がれる

金色の体 黒い剣 舞踊る赤き渦
数奇な道を越え 龍の主に牙を剥いた
憎しみと悼みの戦舞
振りかざした想いが 金色の鱗を切り裂いた

「傷つけ合うしか 出来ないのか」

紅き龍血 血の鎖 支配される龍群
血の絆が 龍の長の証となった
戸惑いと希望の交響曲
協和の願いを胸に 少年はそれを飲み干した

「我らを導き護るなら 我の力を与えよう」

琥珀の空 翡翠の双鉾 龍王の誕生
受け継がれし約束が 全てを結びつけた
過去と未来の序曲
明日を歌い 少年と龍は空を駆けた

そして少年は 龍主となった

   [グラシア王国起国伝承童歌]





少年が少女を見つけた時
少女は微かに驚き そして微笑んだ
全てを包み込むような微笑
全ては神の手の上の物語
思えばあれが運命と呼ばれるものだったのだろうか

――…―…アルファザード=グラシア [独白記]
by 遊 水羽  at 15:11 |  GuildWorld -盗賊と龍- |  comment (0)  |   |  page top ↑
プロフィール

Author:遊 水羽
+ゆとりのオリジナルキャラクター
瑯row 玖桜cou 揶矯yata 璃緒akio
の日記形式で展開します。
空飴風味本舗で描く本編とはまた違った瑯達の世界をお楽しみ下さいv
※キャラクター基本設定に変更はありません。
設定は国などをまとめ次第、空飴風味本舗にてUPさせて頂きます。


=言いたいことをぽつぽつと。=

いらした方はぜひ足跡残して下さいなv
コメント大歓迎です!どうぞゆとりに知恵を…!!

また字間違い等ありましたらご連絡下さいっ
ついでに遊がBLに走りそうだったらどうぞ止めてやってください。
ここだけの話、遊の脳内では最初揶矯×瑯の話でした。玖桜はオマケだったという…頑張れヒロイン笑

ゆとりは文才皆無ですので稚拙な文に不快になられる方は全力でこの場から逃げることをオススメします。

未だにキャラの口調が掴みきれてなかったりorz
日記形式ってのが分かり難いんだ←

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更新は不定期になります。
文が完成したらこっそりと更新してます。

ではでは少しでも楽しんで頂ければ幸です(´v`*

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