深雪月18日

「いっててて…。ったく本気で打ち込むなよなぁ」
「まさか熱で倒れるとは思わなかったんだ。驚いて手元が狂っただけで手加減はしたよ」
実際は最近の瑯の剣腕はめきめきと上がっていて以前のように余裕を持って手加減などできてはいないけどな。
王宮に侵入した瑯を剣で打ち据えたのは昨日の事。突然倒れるからどうしたのかと思えば、どうやら熱を出していたらしい。璃緒様によると王宮には薬草を取りに来たそうだ。
そのまま目が覚めないので俺は薬草と共に瑯をこの店まで連れてきてトーマに見せた。トーマは症状を一見すると何時もの無口はどこへやら、手早く的確な指示を出して薬を調合した。
「…どんくさい」と相変わらず無愛想なトーマ。
「そういう事だな」と俺。
「トーマまで…っくそっ」
トーマの薬の効き目は確かで、高熱でうめいていた瑯はぴたりと寝静まり寝息を立て始めた。そして今に至る。
「あんなに弱って震えてたくせに治った途端強気だな…」
「うるせぇぞ揶矯」
こういうところは子供らしくて可愛いんだがなぁ…
俺がふぅとため息を吐くと、子供扱いされたと分かりムカついたのか、瑯は壁に架かった飾物の剣を取り、構えた。
「は…?ちょ…ちょっと待てっ」
待つはずもなく横凪ぎに一閃、俺は腰に携えた剣を剣帯から外し鞘でそれを受け止める。
「周りに迷惑がかかるだろっ馬鹿っ」一瞬周りに目を向けるが、トーマはいつの間にか居なくなっていた。
「はっいねえ…よっ」
瑯は弾き返されると直ぐ様体勢を整え上段から振り下ろす。俺も剣を抜き放ち受け流すとそのまま肩へ一撃。瑯は屈んで避けると下から手の甲を狙うが直ぐ様転身した俺の凪ぎに気付き跳び下がる。すかさず踏み込んで突くが瑯は受け流し、勢いを利用し俺の首に迫るが俺は紙一重でかわすと、凪ぎに移ろうとする瑯の手を強かに打ち叩いた。
落ちた剣を急いで遠くへ蹴り、掌を繰り出そうとする瑯の後ろに移ると剣を逆手にし柄で首を打ち抜いた。
「かは…っ」
力が入らず思わず床に膝を付いた瑯は「くそ――っ」と言って床にゴロンと横になり、「…何点」うつ伏せのまま尋ねた。
「52点。熱だった事を考慮するなら…68点やっても良いけどな」
答えながら瑯の抱き上げベットに寝かす。
「ちっくしょ…」
いつもならこんな事したら鉄拳が飛んでくるんだろうけど、本当に病み上がりで苦しいみたいだ。苦しそうに肩で息をしている。寒いのだろう、手足が震えているので毛布を掛けて手を握ってやる。
この状態であれだけ剣を振れれば大したものだ。…振る必要は無かったが。
「……バカだなぁ…」
そう呟くと青い顔から大分良くなった瑯がぼそりと呟いた。
「これか…巷の女が悶え死ぬかと思ったって言う微笑は。……男の俺にそんな溶けるような顔をしてどうすんだよ…こっちが恥ずかしいなっちまっうだろ」
…向こうを向いて喋るので良く聞こえない。
「…?何か言ったか?」
「なんでもないっ」
そのままベットに潜ってしまった。…なんなんだ。
「…大分持ち直したようだな」
振り返ると、今までどこに居たのか、騒ぎの中いなかったトーマが一枚の紙を手に立っていた。何やら嫌な感じがして紙から眼が離せなくなる。
「あぁ…。…一応聞くが、その紙は…何だ?」
トーマはいつもの無愛想な顔のまま紙を持った右手を突き出した。押し付けられたそれを、戸惑いつつ見つめて俺は固まった。長々とそして細々と料金明細が書かれているリストの一番上には他よりも太い字でその正体を主張していた。
「…診察料」
呟くとトーマがうんうんと頷いた。
「ぼったくりだ…」
どう考えても普通の診察料より0が一つ多い。取れる物からは全て取っているようで、診断料、調合料、調剤料、ベット料、薬を服飲させた事や寝かせた事、果てに真新しい字で剣の使用料金と迷惑料まで書き込まれている。
「ちょっと待て!ここの剣を使ったのは瑯だぞ!?俺は関係な…」
「……そうだった」
ぼそりと呟くと少し考えて、トーマはペンを取りリストの最後に"剣闘料"と書き込まれた。
……こいつ…っ
「おい…っおかしいだろ、この明細表っ」
「………のか…」
強く言われたトーマは目をうるませて下を向いてしまう。
「あ…そ…そんな…泣くなよ…」
「騎士で王様からたぁんまり金貰ってるはずのに、けちるんだ…」
「……え?」
「弟みたいに慈しんでる瑯の為に金くらい払ってやろうとか思わないんだ…」
「お前…いつもは喋んないクセに」
「こんな小さな亜人の子が一所懸命治したのに、少しくらいサービスしてくれたって…」
チラリとうるんだ眼で見上げるトーマを見て、わかっているのに…演技だと分かっているのに背中を伝わる冷や汗。罪悪感で心臓が釘を刺されつつ握り潰されているような感覚。
情けなさを噛み締めながらポケットの財布に手を伸ばす。
「…分かった。18700クナだな、…ほら19000クナ。300クナは迷惑料に上乗せしとけ」
あぁ情けない。こう小さい奴に強く出られるとどうも強く言い返せない。
金を両手に受け取ったトーマは驚きと感嘆の眼で見つめてくる。
「……なんだ?」
「……あんた、やっぱり優しいんだなぁ…」
そういうとにやりと口の端を上げた。
…………………………こいつっ
俺は盛大にため息を吐き、トーマはきょとんとした顔で俺の表情を覗き込み、ベットの上でうっすらと目を開いた瑯が笑い声を洩らした。
by 遊 水羽  at 19:59 |  揶矯の日記 |  comment (0)  |   |  page top ↑

龍皇女婚譚

璃緒が王の書斎の扉を開くと、上質な深紅のベルベットの椅子に深く身を沈めた父、全=ジェドモンド=グラシア国王が顔を上げ、全の正面の大きく重厚な木製の書斎机を挟み立っていた兄、深良=ディリアン=グラシアが振り向いて璃緒を招き入れた。
璃緒はスカートをつまみ可愛らしく形式の礼をした。
「璃緒=エルト=グラシア、参上致しました。国王陛下。」
「うむ、急に呼び出してすまなかったな璃緒=エル。そう堅くならんで良い、ほらそこの椅子に座りなさい」
璃緒は客椅子に腰掛けると黙って王の言葉を待った。
全は大窓に眼を向け空を眺めていたが、ふと振り向いて穏やかな口調で尋ねた。
「これは何の匂い…かな。クシス草かね?また庭園に居たのか」
「シラク草ですわ。……お父様。国王と次期国王二人で呼び出す様な用件なのでしたら、早く本題に入って頂きたいわ」
全は暫し椅子に体を沈め深く息を吐くと、緑玉のごとき瞳で璃緒を見つめ、唇を開いた。
「伝える事は二つある。…一つ目に、お前に婚約の話が来ている」
「お断りして下さいませ」
「無理だ」
璃緒がそう答えるだろうと図っていたタイミングで全は璃緒の言葉を却下した。
璃緒は頬を膨らませ反論する。
「何故です。いつもならお断りしても何も言わないじゃありませんか。いったい何処の貴族なのですか?」
全は暫し逡順して口を開くと溜め息と共に声を押し出した。
「貴族…ではないのだよ。」
璃緒は眉をひそめ「では誰?どこの馬の骨ですの?」と問う。
「…煌帝国第三皇子にして次の帝王、犀生=煌。そしてバルディウス公国大使、レノ=デュアル=ラドルフ」
璃緒は眼を見開き「今…何と?」と再び尋ねた。
「シシル山脈を挟み常に対立してきた強国の最実力者達が婚約を申し込みに来たのだよ、璃緒=エル。二国同時にだ」
「それは…」
煌帝国、バルディウス公国、そしてグラシア王国。それぞれ東、南東、西に聳え立つシシル山脈によってなかなか隣国に攻め入る事が出来ず、今まで三国は三つ巴で牽制し合い何とか国境を保ってきた。
璃緒がどちらも選ばず追い返せば、煌帝国とバルディウス公国が同盟を結び戦争になる可能性がある。
プライドが高いと噂の犀生皇子と冷酷な策略家と評判のレノ大使ならば、その危険性は非常に高い。
しかしどちらかを選ぶ、もしくは選びそうとなれば残された国は同盟を結ぶのを阻止せんと、璃緒を殺しにくる可能性がある。
何にせよ今まで大規模な戦争が起こらなかった方が奇跡なのだ。綿密に計算し上手く立ち回らなければ戦乱は免れないだろう。
三国の力は拮抗している。
大陸最強の重装歩兵団を持つ煌帝国。常に内乱が多発する国だけに兵士の数は大陸一で統率力もある。また高度に発達した機械産業により武器の精度も高い。またクシャトリアと呼ばれる剣闘士を保有している。
兵軍の数は少ないが、それを補う魔法師を持つバルディウス公国。抗魔法石で作った武具無しに魔法師と戦い、生き残る確率は二割に満たない。更に魔影と呼ばれる暗殺兵団があると聞く。
大陸最強の騎士団を持つグラシア王国。勇敢な軍馬と騎士、歩兵を多く持ち、個人の力が平均的に高く一対一の戦いならまず負ける事はない。龍騎士も存在したが、今はそもそも龍の存在自体が伝承となりつつある。
―――…戦争だけは避けなくちゃ…っ
微かに眉をしかめながら宙をきっと睨みつける璃緒を深良が心配そうに見つめた。
しかし声はかけない。かけられない。何を言えと言うのだろうか。次期国王として妹姫を敵国に売りつけようというのに。
「深良=ディル。」
璃緒の僅かな反応も見逃さないようにじっと見つめながら、全は深良に声をかけた。
その声から話を進めろという意を聞き出し、深良は意を決して口を開いた。
「二つ目に、八日前から瑯との連絡が絶たれている。」
長く思案していた少女は目覚めたかの様に深良を仰ぎ見た。深良はその視線に答え、頷き、
「瑯には王の盗人として、煌帝国とバルディウス公国の政情を調べに行ってもらっていた」
瑯は前の玖桜との一件以来、玖桜を任せると共に王の盗人として働くようになっていた。王や騎士には国民の為にも後ろ暗い事があってはならない。しかし正攻法だけではどうにもならない事もある。
これが初代皇帝が盗賊ギルドを作った理由である。
「瑯に依頼して受けて頂いたのですわよね?…それでしたらそれは…」
璃緒は言葉を濁し、深良は眼を伏せて言葉を継いだ。
「仕事には律儀な瑯だ。仕事をさぼったりもしないだろう…あいつは絶対に。そんな事はあいつの誇りが許さないし、そんな奴じゃない。この間までは毎日詳細に報告を入れていたし…。怪我をした時も目が覚めてすぐに人を使ってでも連絡を寄越したな。…何かあったならなんとかして助けてやりたい」
そう言って黙ってしまう深良を璃緒は少し驚いて見つめた。深良がそれ程までに瑯を信頼し、そして心配しているとは思っていなかったからだ。
以前、玖桜の件で瑯に良いようにされてからというもの、深良は瑯の話が出る度に顔をしかめ、必ず悪口を言ったりしていたし、仕事を依頼した時も必ず口論していて、深良が瑯を気に入っていたり好んでいた印象は璃緒から見れば皆無だった。
だから深良がこんなに瑯を心配するとは思わなかった。確かに深良は不器用だが悪い人ではない…愛情の裏返しだったのだろうか。
…それとも依頼人としての罪悪感?
色々な方面に思考が飛びそうになっているのに気付き、璃緒は慌てて思考を修正する。璃緒は白く細い指を折り、話をまとめた。
「可能性は三つですわ。誰かに捕らわれ自由に動けない、重症で未だに目覚めない。もしくは…屍と化したか…」
璃緒の最後の言葉に深良の表情が曇る。
「ですが、最後の一つは恐らく無いと考えて良いでしょうね。」
頷く父と心配そうな兄を横目にふわりと微笑み、
「お兄様、人の心の繋がりを甘く見てはいけませんわ。…ましてや玖桜と瑯は龍の巫女とその主。コトーラル《調節者》である瑯が死に逝く事などがあれば、あんなに懐いていらっしゃるのですもの…玖桜の能力が暴発することは必至。玖桜が未だ私に泣き付いて来ないのですから、そこは心配しなくても良いでしょう。……十中八九、煌帝国かバルディウス公国の人間に捕まった…と考えて良いでしょうね」
―…死んではいなくても死んだ方がマシ…などと言う目に会ってないとは言えませんけれど。
もし捕まったとするならば、どこの手の内か拷問してでも敵は吐かせようとするでしょう。…でも瑯は吐かない。あの子は死んでも吐かない。盗賊としてのプライドを折ることが何より嫌いな奴だもの…。
「だが、彼が無理をしでかしていない…とは言えないだろう」深良の声には心配の色が色濃く残っている。何か策は無いのかと問うその瞳に答える事が出来ず、璃緒は下を向き唇を噛む。
「えぇ、それはもちろん…。ですから何か手を打たねばなりませんが、彼が何処にいるのかも特定出来ていないのですよ?」
「そう」
黙っていた全が口を開き、璃緒と深良は口を閉じて全を見た。
「それを璃緒=エル、お前に調べてきてもらいたいのだよ。」
「私…が?」璃緒は大きな翡翠の瞳をこぼれる程見開いた。
「瑯が煌帝国とバルディウス公国のどちらかに囚われている可能性が高い今、一番身近な情報源は皇子と大使だろう。彼らなら自国に侵入して来た奴がいるならいち早く気付くはずだからな」
璃緒は数瞬唖然とし、その後なるほど、とにんまりと微笑んだ。
「どうせ避けられない縁談話ですものね。獲物からやって来るのですもの。せいぜい有効活用しなきゃ時間が勿体無いですわよねっ」
ふふっとコレから起こることを考えて楽しげに笑うと、全と深良に一礼して颯爽と書斎を後にしようとする璃緒に深良が慌てて声をかける。
「お…おい璃緒。お前はそれで良いのか?自分の納得なんて関係無しに結婚が決まるかもしれないんだぞ!?相手だってどんな危険な手を仕掛けてくるか……っ」
「それがどうしたと言うのですか?」
璃緒は重い扉を開きつつゆっくりと振り向き一瞬寂しそうな眼をしたが、それはすぐに挑むような表情に隠れた。
「他に瑯を調べる良い手が無ければ危険だろうとやるしか無いじゃない。手っ取り早くて良いわ…やらなきゃいけない事にいっぺんに対処出来るもの」
しかし…っとなおも詰め寄ろうとする深良にぴしゃりと言い放つ。
「王が家臣の為に尽力を尽くさなくて何が王ですかっ…それに私、相手が誰であろうと、負けるつもりありませんから。」
そして重い扉は閉じられ、後には頭を抱える深良と溜め息を吐いて椅子から立ち上がる全が残った。深良は立ち上がる全に噛みつくように尋ねる。
「と…国王っ璃緒を本当に行かせるのですか!?」
「なら他に良い手があるのかな?犠牲が最小限かつ瑯は死の一歩手前かもしれんからな、迅速でなければならない」
ぐっと言葉に詰まる深良を諭す様に穏やかに言葉を続ける。
「瑯が捕まる様な相手に一介の兵に調査させてみろ、それこそ命がいくつあっても足りないし我が兵だと判れば国の情勢も危うくなるだろう。璃緒が敵の本丸に近づいても婚約を盾にすれば相手は何も言えないし、璃緒なら殺すよりもっと有効な活用方法があるだろう?今敵を調べるのに一番死から遠いのは璃緒だよ」
「………そうですね。わかります。ですが心配なものは心配ですよ…父さん」
苦し気に言う深良の肩を抱きながら共に扉に向かう。
「お前の気持ちは分かるよ。私だって可愛い娘を危険な目に合わせたくなどない…。しかし私達は王族なのだよ…龍主の一族は配下の龍と国民を護る責務がある。」
「…はい。」
「だがな深良。その気持ちは尊い物だ。なくすでないぞ。そして善き王となれ」
「……はい…!」
深良は優しさと強さの両方を抱いて顔を上げ、重い扉から足を踏み出した。
「さぁ両国の使者に会い、婚約等の話を詰めるとしようか。」
グラシア王国国王と王子は使者の部屋へ続く長い廊下を堂々と歩き始めた。
by 遊 水羽  at 20:37 |  GuildWorld -龍皇女婚譚- |  comment (0)  |   |  page top ↑
プロフィール

Author:遊 水羽
+ゆとりのオリジナルキャラクター
瑯row 玖桜cou 揶矯yata 璃緒akio
の日記形式で展開します。
空飴風味本舗で描く本編とはまた違った瑯達の世界をお楽しみ下さいv
※キャラクター基本設定に変更はありません。
設定は国などをまとめ次第、空飴風味本舗にてUPさせて頂きます。


=言いたいことをぽつぽつと。=

いらした方はぜひ足跡残して下さいなv
コメント大歓迎です!どうぞゆとりに知恵を…!!

また字間違い等ありましたらご連絡下さいっ
ついでに遊がBLに走りそうだったらどうぞ止めてやってください。
ここだけの話、遊の脳内では最初揶矯×瑯の話でした。玖桜はオマケだったという…頑張れヒロイン笑

ゆとりは文才皆無ですので稚拙な文に不快になられる方は全力でこの場から逃げることをオススメします。

未だにキャラの口調が掴みきれてなかったりorz
日記形式ってのが分かり難いんだ←

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地道に本舗→別館と足を運んで下さい

更新は不定期になります。
文が完成したらこっそりと更新してます。

ではでは少しでも楽しんで頂ければ幸です(´v`*

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