2008/04/19
深雪月18日
「いっててて…。ったく本気で打ち込むなよなぁ」
「まさか熱で倒れるとは思わなかったんだ。驚いて手元が狂っただけで手加減はしたよ」
実際は最近の瑯の剣腕はめきめきと上がっていて以前のように余裕を持って手加減などできてはいないけどな。
王宮に侵入した瑯を剣で打ち据えたのは昨日の事。突然倒れるからどうしたのかと思えば、どうやら熱を出していたらしい。璃緒様によると王宮には薬草を取りに来たそうだ。
そのまま目が覚めないので俺は薬草と共に瑯をこの店まで連れてきてトーマに見せた。トーマは症状を一見すると何時もの無口はどこへやら、手早く的確な指示を出して薬を調合した。
「…どんくさい」と相変わらず無愛想なトーマ。
「そういう事だな」と俺。
「トーマまで…っくそっ」
トーマの薬の効き目は確かで、高熱でうめいていた瑯はぴたりと寝静まり寝息を立て始めた。そして今に至る。
「あんなに弱って震えてたくせに治った途端強気だな…」
「うるせぇぞ揶矯」
こういうところは子供らしくて可愛いんだがなぁ…
俺がふぅとため息を吐くと、子供扱いされたと分かりムカついたのか、瑯は壁に架かった飾物の剣を取り、構えた。
「は…?ちょ…ちょっと待てっ」
待つはずもなく横凪ぎに一閃、俺は腰に携えた剣を剣帯から外し鞘でそれを受け止める。
「周りに迷惑がかかるだろっ馬鹿っ」一瞬周りに目を向けるが、トーマはいつの間にか居なくなっていた。
「はっいねえ…よっ」
瑯は弾き返されると直ぐ様体勢を整え上段から振り下ろす。俺も剣を抜き放ち受け流すとそのまま肩へ一撃。瑯は屈んで避けると下から手の甲を狙うが直ぐ様転身した俺の凪ぎに気付き跳び下がる。すかさず踏み込んで突くが瑯は受け流し、勢いを利用し俺の首に迫るが俺は紙一重でかわすと、凪ぎに移ろうとする瑯の手を強かに打ち叩いた。
落ちた剣を急いで遠くへ蹴り、掌を繰り出そうとする瑯の後ろに移ると剣を逆手にし柄で首を打ち抜いた。
「かは…っ」
力が入らず思わず床に膝を付いた瑯は「くそ――っ」と言って床にゴロンと横になり、「…何点」うつ伏せのまま尋ねた。
「52点。熱だった事を考慮するなら…68点やっても良いけどな」
答えながら瑯の抱き上げベットに寝かす。
「ちっくしょ…」
いつもならこんな事したら鉄拳が飛んでくるんだろうけど、本当に病み上がりで苦しいみたいだ。苦しそうに肩で息をしている。寒いのだろう、手足が震えているので毛布を掛けて手を握ってやる。
この状態であれだけ剣を振れれば大したものだ。…振る必要は無かったが。
「……バカだなぁ…」
そう呟くと青い顔から大分良くなった瑯がぼそりと呟いた。
「これか…巷の女が悶え死ぬかと思ったって言う微笑は。……男の俺にそんな溶けるような顔をしてどうすんだよ…こっちが恥ずかしいなっちまっうだろ」
…向こうを向いて喋るので良く聞こえない。
「…?何か言ったか?」
「なんでもないっ」
そのままベットに潜ってしまった。…なんなんだ。
「…大分持ち直したようだな」
振り返ると、今までどこに居たのか、騒ぎの中いなかったトーマが一枚の紙を手に立っていた。何やら嫌な感じがして紙から眼が離せなくなる。
「あぁ…。…一応聞くが、その紙は…何だ?」
トーマはいつもの無愛想な顔のまま紙を持った右手を突き出した。押し付けられたそれを、戸惑いつつ見つめて俺は固まった。長々とそして細々と料金明細が書かれているリストの一番上には他よりも太い字でその正体を主張していた。
「…診察料」
呟くとトーマがうんうんと頷いた。
「ぼったくりだ…」
どう考えても普通の診察料より0が一つ多い。取れる物からは全て取っているようで、診断料、調合料、調剤料、ベット料、薬を服飲させた事や寝かせた事、果てに真新しい字で剣の使用料金と迷惑料まで書き込まれている。
「ちょっと待て!ここの剣を使ったのは瑯だぞ!?俺は関係な…」
「……そうだった」
ぼそりと呟くと少し考えて、トーマはペンを取りリストの最後に"剣闘料"と書き込まれた。
……こいつ…っ
「おい…っおかしいだろ、この明細表っ」
「………のか…」
強く言われたトーマは目をうるませて下を向いてしまう。
「あ…そ…そんな…泣くなよ…」
「騎士で王様からたぁんまり金貰ってるはずのに、けちるんだ…」
「……え?」
「弟みたいに慈しんでる瑯の為に金くらい払ってやろうとか思わないんだ…」
「お前…いつもは喋んないクセに」
「こんな小さな亜人の子が一所懸命治したのに、少しくらいサービスしてくれたって…」
チラリとうるんだ眼で見上げるトーマを見て、わかっているのに…演技だと分かっているのに背中を伝わる冷や汗。罪悪感で心臓が釘を刺されつつ握り潰されているような感覚。
情けなさを噛み締めながらポケットの財布に手を伸ばす。
「…分かった。18700クナだな、…ほら19000クナ。300クナは迷惑料に上乗せしとけ」
あぁ情けない。こう小さい奴に強く出られるとどうも強く言い返せない。
金を両手に受け取ったトーマは驚きと感嘆の眼で見つめてくる。
「……なんだ?」
「……あんた、やっぱり優しいんだなぁ…」
そういうとにやりと口の端を上げた。
…………………………こいつっ
俺は盛大にため息を吐き、トーマはきょとんとした顔で俺の表情を覗き込み、ベットの上でうっすらと目を開いた瑯が笑い声を洩らした。
「まさか熱で倒れるとは思わなかったんだ。驚いて手元が狂っただけで手加減はしたよ」
実際は最近の瑯の剣腕はめきめきと上がっていて以前のように余裕を持って手加減などできてはいないけどな。
王宮に侵入した瑯を剣で打ち据えたのは昨日の事。突然倒れるからどうしたのかと思えば、どうやら熱を出していたらしい。璃緒様によると王宮には薬草を取りに来たそうだ。
そのまま目が覚めないので俺は薬草と共に瑯をこの店まで連れてきてトーマに見せた。トーマは症状を一見すると何時もの無口はどこへやら、手早く的確な指示を出して薬を調合した。
「…どんくさい」と相変わらず無愛想なトーマ。
「そういう事だな」と俺。
「トーマまで…っくそっ」
トーマの薬の効き目は確かで、高熱でうめいていた瑯はぴたりと寝静まり寝息を立て始めた。そして今に至る。
「あんなに弱って震えてたくせに治った途端強気だな…」
「うるせぇぞ揶矯」
こういうところは子供らしくて可愛いんだがなぁ…
俺がふぅとため息を吐くと、子供扱いされたと分かりムカついたのか、瑯は壁に架かった飾物の剣を取り、構えた。
「は…?ちょ…ちょっと待てっ」
待つはずもなく横凪ぎに一閃、俺は腰に携えた剣を剣帯から外し鞘でそれを受け止める。
「周りに迷惑がかかるだろっ馬鹿っ」一瞬周りに目を向けるが、トーマはいつの間にか居なくなっていた。
「はっいねえ…よっ」
瑯は弾き返されると直ぐ様体勢を整え上段から振り下ろす。俺も剣を抜き放ち受け流すとそのまま肩へ一撃。瑯は屈んで避けると下から手の甲を狙うが直ぐ様転身した俺の凪ぎに気付き跳び下がる。すかさず踏み込んで突くが瑯は受け流し、勢いを利用し俺の首に迫るが俺は紙一重でかわすと、凪ぎに移ろうとする瑯の手を強かに打ち叩いた。
落ちた剣を急いで遠くへ蹴り、掌を繰り出そうとする瑯の後ろに移ると剣を逆手にし柄で首を打ち抜いた。
「かは…っ」
力が入らず思わず床に膝を付いた瑯は「くそ――っ」と言って床にゴロンと横になり、「…何点」うつ伏せのまま尋ねた。
「52点。熱だった事を考慮するなら…68点やっても良いけどな」
答えながら瑯の抱き上げベットに寝かす。
「ちっくしょ…」
いつもならこんな事したら鉄拳が飛んでくるんだろうけど、本当に病み上がりで苦しいみたいだ。苦しそうに肩で息をしている。寒いのだろう、手足が震えているので毛布を掛けて手を握ってやる。
この状態であれだけ剣を振れれば大したものだ。…振る必要は無かったが。
「……バカだなぁ…」
そう呟くと青い顔から大分良くなった瑯がぼそりと呟いた。
「これか…巷の女が悶え死ぬかと思ったって言う微笑は。……男の俺にそんな溶けるような顔をしてどうすんだよ…こっちが恥ずかしいなっちまっうだろ」
…向こうを向いて喋るので良く聞こえない。
「…?何か言ったか?」
「なんでもないっ」
そのままベットに潜ってしまった。…なんなんだ。
「…大分持ち直したようだな」
振り返ると、今までどこに居たのか、騒ぎの中いなかったトーマが一枚の紙を手に立っていた。何やら嫌な感じがして紙から眼が離せなくなる。
「あぁ…。…一応聞くが、その紙は…何だ?」
トーマはいつもの無愛想な顔のまま紙を持った右手を突き出した。押し付けられたそれを、戸惑いつつ見つめて俺は固まった。長々とそして細々と料金明細が書かれているリストの一番上には他よりも太い字でその正体を主張していた。
「…診察料」
呟くとトーマがうんうんと頷いた。
「ぼったくりだ…」
どう考えても普通の診察料より0が一つ多い。取れる物からは全て取っているようで、診断料、調合料、調剤料、ベット料、薬を服飲させた事や寝かせた事、果てに真新しい字で剣の使用料金と迷惑料まで書き込まれている。
「ちょっと待て!ここの剣を使ったのは瑯だぞ!?俺は関係な…」
「……そうだった」
ぼそりと呟くと少し考えて、トーマはペンを取りリストの最後に"剣闘料"と書き込まれた。
……こいつ…っ
「おい…っおかしいだろ、この明細表っ」
「………のか…」
強く言われたトーマは目をうるませて下を向いてしまう。
「あ…そ…そんな…泣くなよ…」
「騎士で王様からたぁんまり金貰ってるはずのに、けちるんだ…」
「……え?」
「弟みたいに慈しんでる瑯の為に金くらい払ってやろうとか思わないんだ…」
「お前…いつもは喋んないクセに」
「こんな小さな亜人の子が一所懸命治したのに、少しくらいサービスしてくれたって…」
チラリとうるんだ眼で見上げるトーマを見て、わかっているのに…演技だと分かっているのに背中を伝わる冷や汗。罪悪感で心臓が釘を刺されつつ握り潰されているような感覚。
情けなさを噛み締めながらポケットの財布に手を伸ばす。
「…分かった。18700クナだな、…ほら19000クナ。300クナは迷惑料に上乗せしとけ」
あぁ情けない。こう小さい奴に強く出られるとどうも強く言い返せない。
金を両手に受け取ったトーマは驚きと感嘆の眼で見つめてくる。
「……なんだ?」
「……あんた、やっぱり優しいんだなぁ…」
そういうとにやりと口の端を上げた。
…………………………こいつっ
俺は盛大にため息を吐き、トーマはきょとんとした顔で俺の表情を覗き込み、ベットの上でうっすらと目を開いた瑯が笑い声を洩らした。


