2008/03/13
「いてて…。あーしくったなぁ」
瑯はやっとこさ瓦礫の山から頭を出し、頭を振り茶色の髪に付いた砂ぼこりを払い落とすと、今落ちてきた穴を見上げた。まだパラパラと細かい欠片が落ちてくる穴は闇を飲み込んだ様に果てが見えなかった。
「さてと…どうするかな」
見たところ地下道だろう。空気も澱まず流れている。
「ったく、深良の依頼をこなすといつもろくな事がねえ」
瑯は今日はグラシア王国第一王子深良=ディリアン=グラシアの依頼で敵国の情報を掴みに来ていた。公にはされていない盗賊稼業の仕事の一つである。
瑯はもう一度上を見上げ距離を図った。
「登れなくはねえけど時間が掛かると人がなぁ…」
暫しの思考の後に瑯は風の臭いのする方へ駆けて行った。
その後ろ姿を一匹の岩猿が暗闇で目を爛々と輝かせ見つめていた。不気味な笑みを浮かべながら。
by 遊 水羽 at 22:57 |
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2008/03/13
私の目はとうとうおかしくなってしまったのかしら。
あぁこんな事ならもっと深良お兄様と口論したり、揶矯に難問を与えたりしてストレス発散すれば良かった…。
「おい、璃緒。気付いたなら見てねえで手伝え」
なんで王宮に盗賊が紛れ込んで薬草をつんでいるのかしら。
「瑯。貴方でも仮にも王女に向かってそんな口の聞き方…っ」
「はいはい。今、急いでんだ。ほらソコの白い花の葉を取れよ」
この男は…って、え…白い花?
「スノーベルですの?誰か熱でもありまして?」
スノーベル。雪のように小さく白い花が鈴のような形をしていて、風に揺れてシャラシャラと音を出す事から。
特徴としては、スノーベルの葉を擦り潰して飲むとたいていの熱や風邪はたちどころに治してしまう。
とても希少な薬草の為に一般ではあまり手に入らない。
「そんなとこ。」
瑯はそれだけ言って、黙々と薬草を摘み始めた。
しょうがないので私もスノーベルを集める。
「玖桜…じゃありませんわね。」
天候も悪くないですし。
太陽神の巫女の彼女の体調が崩れれば、必ず天候に現れる。ありがたい事に今日は晴天だった。
「玖桜は大丈夫だ。俺が一ヶ月も仕事に出てたから機嫌は悪いけど」
「あぁ…それでこの間、晴れているのに雷が落ちましたのね。」
では誰かしら。
揶矯?いいえ、彼は昨日の軍事演習で見事な剣技を披露したばかりです。
お頭さんかしら。あの方が熱を出すなんて…ありえないわ。キルエおば様も同じく。
あのペド?瑯が薬を用意するわけないから却下。
瑯は人懐っこいけど、心から信頼している人は比較的少ないわ。王宮に忍び込むなら余程大事な人のはず。
ギルドの人?町の人?町で熱や風邪が流行っているような噂は聞きませんが…。
「瑯。」
なんだよ。といぶかしげな眼で瑯は振り向いた。
「貴方が熱なのですね?」
瑯が微かに息を飲んだ。
どうやら勘は当たったようね。
「…俺がわざわざ自分の為に貴重な薬草を摘むと思うか?」
「玖桜が居ますもの」
瑯はピクリと眉を寄せた。これも図星。私に当てられるのが余程悔しいのでしょうね。珍しく悔しそうに唇を噛んでいる。
「玖桜に風邪を移す訳にはいきませんものね」
「るせぇ」
そう言ってまた黙々と薬草を摘み始めた。
可愛らしいところもあるじゃない。
ちなみにこの少し後に揶矯に見つかり、怒った揶矯と瑯は鬼ごっこで大騒ぎすることになる。
by 遊 水羽 at 15:28 |
璃緒の日記 |
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2008/03/12
「だる…」
深良の部屋に依頼品の資料を届け終わり、俺は壁に寄りかかりながら部屋を後にした。
この寒い時期に鉱山に潜っていたからだろうか、一週間以上経った今も体の芯に未だに寒さと震えが残っている。
一週間は玖桜と一種に居るって決めたんだ。あいつに移すわけにはいかない。
…はやく治さないと。
どこかに薬、あったかな。
by 遊 水羽 at 15:27 |
瑯の日記 |
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2008/03/11
「ふーん。どうしても言えないんですか」
「しょうがないだろ…依頼人のいる仕事は口外禁止って決まってんだから…」
約一ヶ月の仕事を無事に終え、隠れ家に帰った俺の目の前には珍しく不満丸出しの玖桜。そして周りにはにやにやと笑うお頭のダンテとペド、錬といった盗賊団の面々にキルエおばさんにウィスカ、テイルと珍しく外に出ているトーマ。
「嬢ちゃんっ負けんな押しきれっ」「嬢ちゃんが押し切るに百クナ」「いーや、瑯が逃げ切るに百クナだな」「女の底力を見せておやりよっ」「くーちゃん頑張れぇ」「機密事項、売る気ないか?」「帰りたい…」
それぞれ好き勝手に騒いでいる。
「出かける時は一週間で帰るって言いました。…さて、出かけたのは降神月の17日目です。今日は?」
「深雪月16日目です。」
玖桜はうんうん。と腰に手を当て深く頷きながら半目で睨み続ける。いつも穏やかな奴が怒ると一番厄介なんだよな…。
「私は予定より三週間以上も待たされたって事です」
「それは…悪かったよ」
確かに悪いとは思っているが、しょうがないじゃないか。あんな地図も満足にない山賊が屯している岩山の洞窟を調べてこいっていう深良の依頼だったんだから。
「それはまぁ構わないです。明日、依頼主に報告に行くのも義務ですからしょうがないです。でも明後日からまた遠出するかもしれないってどういう事ですかっ」
「依頼主が満足しなかったら、また行くことになるかもって可能性の話だよ。一応依頼分の資料は手に入れたが、この分だと更に深く調べなきゃいけなさそうなんだ。でも…」
「……またですか。また置いて行くのですか。」
玖桜はふぅ―っと深く息を吐いた。
…やばい。これは思った以上にやばい。
いち早く玖桜の変化にお頭が気付き手を振って手下達に合図を送ると、皆がわたわたと部屋の中の物を外に出し始めた。
「三週間も我慢したのにっ一週間くらい私の為に時間を取ってくれても良いじゃないですか――――っ」
玖桜が叫ぶと同時に錆色の瞳が鮮やかな金色に変わると、玖桜を中心にして突如風が巻き起こった。
「だぁっもう分かった、分かったから家で嵐を呼ぶな―――っ」
―数分後、俺はテイルとトーマの店"猫"の地下でトーマの治療を受けていた。治療を受ける俺の横には玖桜が申し訳なさそうに小さくなって椅子に座っていた。
「ごめんね…瑯。私まだ上手く力をコントロール出来なくて…」
玖桜は巫ギルドの神楽舞の巫女であると同時に、グラシア王国の古の龍神の力を受け継いだ神子だ。その力のせいで色々な大変な目にあってきた。
「や、大丈夫だ。ちゃんと止めてやれなくて悪かったな」
とある事件で玖桜と知り合い、玖桜の力を止める役割を担う事になった俺も、やはり上手く制御出来ない。
「玖桜。お前が悪いんじゃ…ない。瑯が飛んできた椅子を避けきれなかったのが悪いんだ。――っと、ほら終わったぞ。とっとと俺の家から出ていけ」
そう言うとトーマはバシッと背中を叩き、治療箱をもって階上へ上がって行った。後には俺としょんぼりとした玖桜が残る。俺は気まずくて頭を掻きながら口を開いた。
「玖桜。俺、明日は依頼主に会ってくる」
「はい…。気をつけて下さいね。」
「それで、一週間は暇をもらってくる」
玖桜が驚いて顔をあげた。
「いっ良い!…そんな…無理に脅しつけて一緒にいたい訳じゃないですから…」
「違うよ、玖桜。最初からそのつもりだったんだ…」
玖桜はきょとんとした顔で俺の言葉の続きを待った。
「可能性としてすぐ調査に行けって命令されるかもしれないけど、一週間は断ろうと思うって言おうとしたんだ。なのに玖桜が聞く耳持たなかったんじゃないか」
「……それは…」
また置いて行かれるかと思うと頭に血が昇って…と口の中でごにょごにょと言い訳をした。
「大体俺は依頼主に仕えてる訳じゃねぇんだ。俺は盗賊。やりたいと思った事にしか手を出さねえのが俺達の決まり事だ。依頼主がなんと言おうが俺は使役される気はねえし、休みたければ勝手に休むさ」
玖桜が上目使いにおずおずと確認を取った。
「じゃあ…この一週間は」
「何度も言わせんな。一週間は家でのんびりするよ」
俺がそうため息を吐きながら言い終わると同時に、玖桜がきつく腕にしがみついてきた。
「ごめんね……ありがと」
そういうと玖桜は満面の笑みで笑い、顔を俺の腕に埋めた。
帰って来て良かった…そう思う瞬間だ。
by 遊 水羽 at 10:23 |
瑯の日記 |
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2008/03/10
王宮にある庭園で、少女は苛立ちに任せて花を手折っていた。少女の白い手を包む純白のレースの手袋が、花の汁によって見る間に濁った緑に染まっていった。両手いっぱいに花を摘むと少女は露台の椅子に座り、胸元から短刀を取り出すとその花を丁寧に細かく刻み始めた。手袋はますます汚れ茶色となり、少女の白くほんのりと桃色の頬や黒々と艶めく長い黒髪にも汁が飛んだが、少女は構わず刻み続けた。
その時、六十をこえる位の老女がスカートの裾を摘まみながらその年齢からは想像が出来ない程の俊敏さで少女に向かって突進していた。
「姫様っ璃緒様!またこんな所まで抜け出してっ。シャシャはもう小一時間走り周りましたよ」
璃緒と呼ばれた少女はため息を吐くと、手に持った短刀を見るも無惨な純白だったレースの手袋に擦りつけ、汚れが綺麗に落ちた事に満足するとまた短刀を胸元にしまい、スカートから絹のハンカチを取り出すと刻んだ花屑を丁寧に集めポケットに収めた。
「あら、王宮の庭園をこんな所とはなんですか。私は気に入ってるのよ」
「確かに見事な庭園ですが、薔薇の様に綺麗な花は一輪だってないし薬草ばかりで、姫様が来るような所じゃございませんて。あぁまた手袋をそんなにして…」
ぶつぶつと文句を言いながら、前掛けのポケットから綺麗な手袋を一式取り出す。
璃緒はこの口煩い老婆が怒りながらも一度は逃がしてくれ、服などを汚した場合にちゃんと代えを用意して置いてくれる、そんな優しさと気の付きの良さが大好きだった。逃してくれるのは恐らく璃緒の身分を気遣っての事だろう。姫という重責を理解してくれる人が一人いるだけで璃緒は満足だった。
「はいはい。貴方の言い分はいつも耳が痛ぁくなる程身に染みてましてよ。…それで……何なのです?誰が私をお呼びなのかしら」
言われるがまま新しい手袋をつけ立ち上がると、王宮に向かいながら尋ねた。
「王様と若君様でございます」
侍従頭シャシャは悠々と歩く姫の後ろを、服が汚れたり破れたりしないかハラハラしながらちょこちょことついていった。
「お父様とお兄様?」
璃緒は驚いて振り向いた。
「お二人が私を呼ばれるなんて…何が有ったのシャシャ。そんな事、前の王位継承問題以来よ?」
「シャシャは存じあげてはおりません。ただ王の書斎に璃緒様をお連れしろと御命令を賜っただけでございます所以」
「…そう…そうよね」
璃緒は眉を寄せ、一瞬の後に数十の可能性を考えたが、どれも彼女の勘に語りかけてくるものではなかった。しかし嫌な予感が胸の内を疼き、璃緒は思わず胸を掴んだ。
璃緒は大きく息を吸うと深く吐き出した。そうして嫌な予感を振り払うと、表情を引き締め足早に書斎へ向かった。
by 遊 水羽 at 16:07 |
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2008/03/08
雲間からうっすらと朝日が線を出し、町に朝を告げる。城下町の一軒一軒の隙間にしっかりと薄靄が満ち、朝日受けてきらきらと輝くのを、一人の少女が眩しそうに見つめていた。
小さい頃から神殿暮らしをしていた少女の朝は早く、盗賊達と盗賊長屋で暮らす今でもそのくせは抜けない。
少女は朝ご飯などに使う水を汲む為に少女には少し大きな木桶を持ち、髪も結わずに井戸へ駈けていたが、ふと足を止め、目を閉じた。
「空気が重い…。嫌な感じですね」
龍神の力を継ぐ巫女は五感が異常に発達している為、代々その五感が感じ取る微妙な変化から運勢を読み取るのを習わしとしている。
少女…玖桜=フィナレイスも、もちろんその例に洩れない。
玖桜は目を開き、錆色の瞳を空気の流れへ向け、形の良い眉をひそめた。
「…璃緒ちゃん……?」
視線の先には、グラシア王国の王城であるルクシェブルク城が、朝日を受けて白く輝きながら悠然とそびえ立っていた。
by 遊 水羽 at 21:46 |
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