2008/10/25
今日は順調に勉強も仕事も終わったし、たまには私からシラク達の所に行こうかしら。と軽やかにスキップをしながら女中達の住み込み長屋に向かっていたら、前方から悲鳴とも雄叫びともつかない叫び声が。
「ラティ…?何をしてるの、あなた」
また槍なんて構えて物騒な、と呆れながらラティに声を掛けると、ラティは半泣き半怒りで駆け寄って来た。
「姫様……っまた…またシラクの部屋に奴が……っ」
「あぁ…バルドス?しょうがないでしょう。シラクも嫌がってないし…」
「ならん!」
…わぉ。いつになくキレてるわね…。
言葉遣いが実家に戻ってるわよ。
「男子が女子の部屋によば…夜這いだなんて、なんと不届きなっ男子禁制だと言うのにも関わらず、招き入れたシラク嬢もシラク嬢じゃ…っバレなければ良いなど、良いわけがなかろう!今日こそは、我が龍(ロン)家に伝わる槍術をもってバルドス氏に制裁を…」
熱くなってるなぁ…。
私は壁に持たれてラティの熱弁をのんびりと傍観する。
ラティ=龍。グラシアの名のある大将と、煌帝国でも三指に入る有名な武家一族龍家の末娘の駆け落ちの末に生まれた、武術のサラブレッド。
…今は実家とも仲が良いらしいけど、以前は"一族の恥"と命を狙われる事もあって、その度に家族一丸となり切り臥せ叩き潰してきたとか。
本気で殺す気で来たら、揶矯も本気で剣を抜くし、ナツメ相手なら勝つか負けるか際どいところ、と言えば、彼女の実力は分かるかしら?
「んもう。止めなさいったら」
…シラク。その格好…バルドスの上着を羽織ってラティに声を掛けるのは逆効果でしかないわ…。
シラク=アイシュデルトシュタイン。言わずとしれたアイシュデルト大図書館と大図書館のある都市リラを統治する大貴族の次女。
8歳の頃、誘拐されかけた所をとある軍人に命を救われて以来、あまたいる婚約者候補を全て捨て、軍人を追いかけ単身で王都にやって来た、貴族の娘には珍しい行動派。
その軍人はもちろんバルドス。普段は大人しいのに、約20歳の年の差も気にせずもうアタックしてるのはもう王城の名物。
「シラク嬢!お退きなさいっ!」
「いいえ何者も通しません!」
「実力公使はいとみませんぞっ」
「私の愛は何者にも屈しません……っ」
喚く二人を尻目に、くぁ…っと私は小さく欠伸を噛み殺す。
お茶でも…と思っていたのだけど…これ、いつまで続くのかしら?
by 遊 水羽 at 01:10 |
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2008/08/09
「ナツメっ良い隠れ場所知らない?」
いつ揶矯に見つかるかヒヤヒヤしながら、隠れ場…と悩むナツメを引っ張る。
「東はヤバいっすよ」
「揶矯は西にいるハズよ?」
私の疑問にナツメは自分の耳を軽く叩いて苦笑する。
「そっか…エルフと人間の混血だったわね…」
彼の耳たぶの半分を挟む金の髪飾りには、王宮で働く際に極秘情報を盗み聴きなど出来てしまう聴覚を押さえる為に、玖桜によって封印語が彫られている魔道具である。
「耳と目がちょっと良いだけで、寿命も魔力も普通。外見もエルフの白金じゃなくて黒鳶の落ちこぼれ亜人っすけどねっ」
「そんな…っ」
否定しようと思ったが、ナツメによってそれは遮られた。
両頬をぐに〜っと引っ張るのはナツメの手。
樺色の目がにこーっと細まる。
「にゃひほふふにょほっ」
すみません不敬罪は勘弁、とあははと笑いながらナツメは手を離す。
「何をするのよっ」
「ダメっすよ」
「何がよ」
「"悲しそうに亜人と言わない"とか"落ちこぼれじゃない"って言おうとしたっしょ。亜人ってのはそれだけで差別用語だし、俺を仲間にしたら誇り高いエルフ族を貶める行為だ。貴方は人間だって言うのも差別っすよ。仮にも一国の姫がそんな発言はヤバいだろ〜」
私は軽くナツメの頬を叩き
「今のは"仮にも"の分」
拳で抉るように逆の頬を殴った。ナツメは目を白黒させながら尻餅をつく。
「バカにすんじゃないわよ…っ私がそんな事に気付かないとでもお思い!?私が言いたいのはね!あんたは私が誇る騎士団の副隊長なのよっそのあんたが自分を恥じるような真似は止めなさいって事よ!」
呆けていたナツメは笑いながら聞く。
「家臣の恥は自分の恥とでも?」
「まっさか。あんたの恥はあんたの物よっ自分で責任持ちなさいっ」
「そう。そして貴方は勉強に戻りましょう」
ポンっと置かれた手に私は身を固くする。
や、揶矯………!
捕縛されズルズルと引きずられるのを、ナツメは嬉しそうに笑いながら見ていた。
「璃緒様」
「何よ揶矯」
「私の副官をありがとうございました」
別に、何もしてないわよ。
by 遊 水羽 at 08:30 |
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2008/08/06
泣きそうな玖桜を見て自然に口から出た言葉。
「私、玖桜が大好きよ」
私の未熟な心のせいで振り回しちゃって、ごめんね。
優しくて正直な玖桜が大好きだよ。
だから泣かないで笑って?
悔しそうな顔の瑯も、じっと見つめていてくれる揶矯も、林檎をくれたひげ面のおじさんも、気の良いおばさんも
皆みんな、本当に大好き。
この国は私の誇りなの。
皆がいるから私は王女でいたい。
大切な人に笑顔をあげるのは、私でありたい。
だってそれって凄い幸せじゃない?
自由はないし、友達少ないし、豪華絢爛な暮らしなんてしたくない。
愛する人と寄り添って歩く。
そんな奇跡、私には無理だと思う。
でもけど私を守ってくれる人、支えてくれる人、愛してくれる人がいるから、大丈夫。
幸せになりたいけど、今が十分幸せだって気付かせてくれて
ありがとね。
玖桜の頭を撫でながら神に祈る。
神様。
どうか、より多くの笑顔を、皆に。
by 遊 水羽 at 23:59 |
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2008/07/27
ベットに横になりぼんやりと天井を眺めていた。
今日は一度も部屋を出ていない。
「なんで…こんなに無気力。」
夏の暑さの性ではないのは分かっていた。しかし頭の中で答えに行き着くのも嫌なので急いで思考を止める。
その時ノックをし人払いする深良お兄様の声が聞こえたので、私はもぞもぞと布団の中に潜る。
「こ〜ら璃緒。隠れるんじゃない」
「うるさい、出ていきなさい変態。勝手に入ってくるなんてプライバシーの侵害よ。セクハラだわセクハラ」
「セ…!……ほぉ…まぁ良いさ。出てこないなら皆にお前の秘密でも言いふらすとするか」
ベッドに腰掛ける気配がし、私は布団を剥ぎ取られないようにしっかりと押さえた。
何を。
私は耳をじっと澄ませる。
「例えば璃緒の初恋は4歳の時庭師のバルジャ当時54歳。初告白は5歳近衛隊隊長の雪当時24歳。そして初キスは7歳相手は当時12歳の…この僕だ!!」
「あれはお父様が考案した罰ゲームでしょう!!」
飛び起き反論すると、肩をがしっと掴まれ逃げられなくなる。
く…しくった!!
手を払い除けたい気持ちを押さえ、にこやかに笑いかける。
「手、離して頂けます?」
「声が笑ってないぞ…しかし何だ元気じゃないか。"体調が悪くて寝込んでいる"とラティは言っていたんだが…」
「それは……」
私が嘘を吐かせたんだけど。
言葉に詰まり横を向こうとするが、肩を押さえられているので動けない。
「玖桜嬢との約束を断ったと聞いた。」
お兄様言葉を選ぶように慎重に言う。
「……何があった?」
「いいえ、…何も」
私はうつ向いたまま答えた。
何もなかった。うん、嘘じゃない。
あったというならそれはずっと前。生まれた時から始まってたわ。
「璃緒…」
ダメだな。最近笑顔が上手く出来ない。
お兄様は肩から手を外し私の頬を挟むようにして上を向かせた。
私は感情を読まれないように表情を消す。
「手、離して」
「璃緒…何があった」
「何もなかったわ」
しばらく睨むように見つめあっていたが、私がそれ以上何も言う気がないのが分かるとお兄様は諦めて大きくため息を付いて手を離した。
「分かった。何もないなら早く起きて着替えて公務に参加しなさい。僕らは"国民に汗水たらさせて生きている"んだ…分かるだろ」
「……分かったわ、私の持論だものね…」
あぁそうだった。私は王族だったんじゃない。
私は――…私………
ぽんぽんと柔らかく頭を叩かれ私は顔を上げる。
「エリー…言いたくないなら良いんだ。でも辛い時は辛いって家族にくらい良いなさい。誰も無理してまで気を張れなんて言わないから…」
そう言いながら深良お兄様は頭を優しく撫で続ける。
いつも意地悪したり厳しくあたるクセに。
「ずるいなぁディーは」
こういう時だけ優しいんだ。
「じゃあ、甘えて良い……?」
深良お兄様はぱっと顔を綻ばせ、
「もちろんだともっさぁ悩みなら……ぐふっ」
私の拳を鳩尾にくらいお腹を押さえうずくまった。
私はさっさとベッドから降りて扉へ向かう。
「あ、璃緒……?」
「甘いわねお兄様。悩みを打ち明けるとでも?この…私が?」
「か、かっわいくないなお前は……」
いまさら分かりましたの?とにまりと笑い部屋を後にする。
チラリと見えたお兄様の顔が笑っていたのは気のせいだと思いたい。
部屋を出ると弾け飛ぶ様にシラクとラティが駆け寄ってきた。
あ〜あ。まさか深良お兄様に借りを作るなんて。
…でも、無理矢理でも私を取り戻させてくれたこと、感謝するわ。
by 遊 水羽 at 23:03 |
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2008/06/30
今日は久しぶりに快晴。
三区にある喫茶店のテラスでのんびりと過ごしている。
「四人で町に出るの久々ですね」
玖桜がチーズケーキをはむはむと食べながら言う。
可愛いなぁもう。
「そうね、最近ずっと雨だったし。晴れて良かったわ」
私はそう言って、ハーブティーに星砂糖を少しだけ入れて、スプーンでくるくるとかき混ぜる。
仕事も深良お兄様に押し付けたしっ完璧っ
心の中でガッツポーズ。
「仕事は?雨だから色々被害出てんだろ?……深良か…」
そう言って瑯は、セサミクッキーをむしゃむしゃと頬張る。
水を差すなっ良いのよ、あいつは仕事に忙殺されれば良い!
バレンタインの恨み、まだ忘れてないわよ…っ
「…………………」
お菓子を楽しむ手を止め、玖桜は左を、私は右を、瑯は正面をじっと見つめる。
「……?なんだ?」
三人の視線を一身に受け、揶矯はやっと顔を上げた。
「揶矯さんが食べてるの…何?」
揶矯の目の前にある、大きな硝子の器に入っているものをじっと見ながら、玖桜がおずおずと聞く。
「いちごチョコキャラメルアイスパフェあんみつココナッツソースがけアーモンドチップ入りチョコババロアつき」
何やら甘ったるそうな長ったらしい名前を一息で言い切る。
「さっき…ウエイトレスに"いつもの"っつったよな」
「ああっ好物なんだ。喰うか?」
滅多に見せない極上の笑顔で尋ねる揶矯に、私達は揃って大きく首を横に振った。
こういう物を食べて、体重が一キロも変動しないあたりが揶矯よねぇ…
by 遊 水羽 at 19:48 |
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