睡狼月17日目

硬い軍靴の音が屋敷の中で冷ややかに響き渡る。
今日は久々に大捕物。麻薬密売人ガナル男爵の検挙。
怒り狂い、璃緒様に醜く喚き散らす男爵夫人を宥めながら揶矯は事の顛末を思い出していた。
そもそも始まりは、男爵が璃緒様に薔薇の花束を贈ろうとした事だった。
その薔薇を贈る時に、薔薇を得る為の苦労やどんなにその薔薇を育てるのが難しく更に枯れやすいかを男爵は長々と語り、最後にこう付け加えた。
―正に貴方の様ですな―
恐らくは薔薇の華やかさ・稀少性を例えての言葉だったのだろう。璃緒様も分かってはいた筈だが、その日璃緒様は深良様にチェスで負けて、いつになく機嫌が悪かった。
それが男爵の運の尽きだ。
璃緒様は美しい瞳をすっと細め、言い放った。
「私の美しさが直ぐに散り去るとでも!?」
パーティー会場の音という音が消え沈黙を吸い込む様な静寂が広がり、空気が一瞬で氷点下にまで下がったあの時を、俺は一生忘れない。
それから自分を侮辱した奴は誰だと璃緒様が調べ始め、男爵の女中から麻薬密売の噂を聞き出し、瑯に証拠を掴ませ国王と深良様から検挙の許可を取り、今ここに至るまで僅か4日で全てを成し遂げる辺り、流石と言うべきか。
「あ…璃緒様……っこれは…コレは何かの間違いなのですっ」
「私が直々に集めた情報に何か間違いがあると、男爵は仰るのかしら?」
「ぐぅ…」
男爵は血の気を失いながら床に手をつく。
「私には愛する妻や息子を養う義務が…!どうか御慈悲をっ今一度チャンスをっ」
涙で皺くちゃな顔が汚く歪んだ。
その正面で男爵の何千万クナしたのか聞きたくなる程豪華な椅子に尊大に座った璃緒様は大きく足を組み換え、口の端を上げ…男の栄華の幕引きを宣言した。
「私、豚に崇められていい気になる様な下卑た精神は持ち合わせておりませんの」
項垂れる男には目もくれず、部屋の隅で一生懸命直立する少年に静かに歩み寄ると、優しく抱き寄せる。
「罪があるのは両親だけ。貴方にはちゃんと養父を見つけて、将来を考えますからね」
それだけ告げると、背筋をしゃんと伸ばし颯爽と立ち去っていった。
騎士達は揃ってその背に頭を垂れる。
俺は、泣きうごめく男爵や怒り猛る夫人を見ても眉一つ動かさない迷いの無い美しい横顔に見惚れた。
璃緒=エルト=グラシア。
優しく、しかし情に流されず英断を振るう強さを併せて持つ美しい我が主。
龍の血を受け継ぐ姫君。
―――敵に回すと、かなり恐い。
by 遊 水羽  at 23:20 |  揶矯の日記 |  comment (0)  |   |  page top ↑

散花月26日目

訓練が終わり、騎士団員達は一日の汗を流す為に大浴場へ向かう。
更衣室で早々に服を脱ぎ捨てたナツメが俺に気づき顔を上げた。
「あ、隊長お疲れ様っす」
「お前もな」
「珍しいっすよね、隊長がここに来んの」
「いつもは屋敷で休むからな」
今日はバルドスの隊と合同練習だった為にいつもの数倍動いたから…だろうか。
普段の練習ではどんなに真剣にやっても軽く汗をかくくらいだか、流石はバルドス。あの重い剣を受けるのは至難の技だ。
「んぁ?揶矯ぁ?お前ここにいて大丈夫なのかよ」
俺に遠慮なく馬鹿力で剣を振り回した張本人、バルドスが半分服を脱ぎながらやって来た。
隣で皐月がぺこりと頭を下げる。
本当この礼儀正しさ、ナツメに見習わせたい。
「何の話だ?」
「何ってそりゃ〜…」
俺の顔をじっと見つめ、隣の皐月を伺いバルドスは頭を掻いた。
「ま、良いか」
何がだ、と詰め寄る俺を「良いから入んぞ」と大浴場に押し込む。慌てて皐月とナツメが後に続いて入ると、浴場の空気が明らかに変わった。
「さ、皐月さんだ…っ相変わらず細い肩だなぁ」
「屈み具合が可愛らしいっ」
「ナツメ副隊長の引き締まった足を見ろよっ」
「バルドス隊長…本当肉体美ってやつだな」
「お…おい揶矯隊長だぜっ」
「え!?」
「マジかっ」
「おい押すなよ」
「い、色っぽい…!」
「てめぇ変な目で見んな」
「前より筋肉が付いたな」
「それもまた」
「うなじのラインが綺麗だ」
「いや、むしろ背中から足にかけてのラインだろ」
「濡れた睫毛が儚げだなぁ」
「蒸気した肌が」
「む、胸を見ちゃダメだっ」
「抱き締めたら丁度良い感じで」
「あの唇が」
「や、やべぇもう耐えらんねぇ…っ」
「俺も…」
「俺、もう上がるわっ」
……………。
「良かったじゃん皐月。お前なら見つめられ続けて、時々後ろからいじられんのにな」
「人…大分走り去りましたね…。凄いなぁ揶矯隊長」
「相変わらずの人気じゃねぇか揶矯!しっかしアイツラ元気だなぁ。しごき足りねぇか?」
「うるさいっ」
…毎日鍛えてんだけど……なぁ。
by 遊 水羽  at 02:27 |  揶矯の日記 |  comment (0)  |   |  page top ↑

陽露月13日目

璃緒=エルト王女、深良=ディル王子。
二人の仲は悪いと言う人は多い。
「璃緒っそんなにチーズばかり食べるなっ。ハムとレタスもバランス良く食べないかっ」
「あら、お兄様こそお酒をお控えになったら?眠ってベットの上でお嬢様方を退屈させてはダメよ?」
「はっお前こそダンスを踊ってきたらどうだ?まぁ、日頃から城内を駆け回るようなお転婆には少々辛い事かもしれんが?」
「あら嫌だわお兄様。貴方の様にいちいち群がる貴族を相手にしていたら、王族の品位を落とすではありませんか。私はお兄様と違って誇り高いのです」
「貴族の男相手ににこりとも笑わない方が、淑女として、王族として恥ずかしいと思うが、まぁ私と違って真の王族の品位を持たないお前には分かるまいなぁ?」
二人とも顔がだんだん上気し、眼が本気になっている。
どっちかが譲れば良いじゃないか。
でも二人ともプライド高いからなぁ…。
二人には派閥があり、派閥間でどちらが次期政権を握るかいつも争っている。(璃緒様は王位を継ぐ気が無いから無意味だと思うが…)
そんな二人が社交場で一緒にいるのは珍しい。
上手くやれば二人に取り入るチャンスである。
「王子殿下、王女殿下。本日もご機嫌麗しゅう。私、西トットルランディック領領主オマートの息子、マラドネス=トットルランディックと申します」
そして一歩間違えれば、二人の集中砲火を浴びる場でもある。
「お前、何者?このおかっぱ」
「おかっぱで美しい友人はいるが、お前には似合わない。切れ、見苦しい」
「だいたい趣味が悪いわ。真紅の上着だなんて」
「足が短いのに長い上着を着るな」
「あら本当。なんてちんちくりんでみすぼらしいのかしら」
「その狐目が不快だ」
「ぼてっとした唇がいやらしいですわ」
「目の毒」
「神経が犯されます」
マラド…なんとかは、顔を真っ赤にしながら友人の元へ逃げ帰った。
周りの人々は、世間知らずの小貴族に同情の言葉を掛ける。
若くして知って良かったな。良い経験だ。あのお二人は敵に回してはいけない。と。
璃緒様と深良様は顔を見合わせ満足そうに親指を立てた。
璃緒=エルト王女と深良=ディル王子は仲が悪いと人は言う。
その真意は、いかに?
「絶対、仲が良いだろ…」
by 遊 水羽  at 22:42 |  揶矯の日記 |  comment (0)  |   |  page top ↑

陽露月6日目

今日も璃緒様は俺の前を颯爽と歩く。
そんな歩き方じゃ、王女の顔を見知っている町の人々にはバレバレなんだけどな。
美人な嬢ちゃん!白の騎士様!と果物や花を投げてくれる人々を見ていると、お忍びで(全くお忍びではないが)来ている姫の心を察してくれているんだと分かり、その優しさに嬉しくなる。
この国は平和だ。
それを知る度に璃緒や王族の方々の統治の素晴らしさと国民への愛を見つける。
「私、玖桜が大好きよ」
そう言って笑う少女の肩に、どれだけの重責があるんだろう。
「揶矯、これは何な訳?」
「知るか。璃緒様に嫉妬してどうする」
「うるせえ。」
正直な瑯に思わず笑ってしまう。
「揶矯」
「なんだよ」
「ちゃんと守れよ?璃緒は俺にだって大事な…うん」
言われなくても、愛する人は守るさ。
この姫の隣に立つ事は一生叶わないし
その背負っているものを肩代わり出来ないけど
俺の出来る限りで、守るよ。
神様。
どうか、大切な人達を守る力を、俺に。
by 遊 水羽  at 23:59 |  揶矯の日記 |  comment (0)  |   |  page top ↑

草萌月31日目

今日も王国は平和だ。
「揶矯―――っこの間の旅のお土産、キムチっていう辛い漬物だぞ―っ」
俺は辛いものは食わん。つうか王宮に入るなって何度言えば分かるっ
「揶矯さん……ぼぉっとしてたら道に迷っちゃったんですけど…パンナさんの果物屋さんってどこですか?」
ここを右に…というか、ここ第一区なんですけど…どうやって入ったんですか?
「ちょっとっシャシャ見なかった?」
シャシャ女中頭なら先程東庭園付近の回廊を…って璃緒様、逆ですよ。また逃げてるんですか貴方は。
「おぉい揶矯ぁ。色町行かねぇ?」
誰が行くかこの馬鹿っ。今、朝の10時だって分かってんのか!?
「揶矯君、ワシの饅頭しらんかね?」
存じておりません、大佐。…手に持ってるの…みたらし団子の串……ですか?…………13本…。いえ、何でもありません。
「おい揶矯、我が愛しの妹姫はどこにいる?」
おそらく西側回廊を逃走中です。
「あ、隊長―っ今日の仕事っす」
ん、認識した。いつもありがとな、ナツメ。どうした?皐月。
「あの――…これもお願い出来ませんか?」
ナツメ、皐月の礼儀正しさを見習え…って、何だって?この仕事バルドスのだろう。は?…色町?…あっの馬鹿!!
「騎士様っすみません、その木に掛かってるシャツを取って頂けませんか?」
もちろんです。…はい。いえいえ何でも無いですから。…あの、手を離して頂けますか?
「おぉい騎士様じゃねぇか。今日はあの美人な嬢ちゃんは一緒じゃねぇんかぁ?」
…………………門番のクセに自分が仕えてる国の姫様の顔を知らないのか…コイツは。
「揶矯様っ外に出るなら、璃緒様が町へ出てないか確認して下さいましっ」
わかりましたシャシャ女中頭。いえ、気にしないで下さい。もう日課ですから。
「だぁれだっ」
取りあえず後ろから目隠しもしないで抱きつく奴は、俺の経験上一人だけだぞウィスカ。
「誰だと思うかいっ?」
って娘と一緒になって何やってるんですかキルエさんっ周りの女性の視線が……っ
「ああっ揶矯の白大将じゃないっすか。今日は何の御用で?ぁ、瑯坊っすか?愛っすね―瑯坊ったら可愛がられてるっすねっ。え、違う?璃緒様?ひゃ―白大将、相変わらずご苦労なこって!いやいやいやいや、不毛だなんて思ってないっすよ。…いやいや思ってないっすからっうひゃひゃひゃっ」
―――――――……切る…っペドなら切っても罪にならないっ…多分っ
「揶矯じゃねぇか。相っ変わらず暇ですね―騎士様は。」
暇じゃねぇよ。帰ったら仕事溜まってんだよ。
「………………」
トーマ……いい加減テイルの背に隠れないでくれないか?
「おぅ!揶矯じゃねぇか。璃緒の嬢ちゃんなら来てねぇぞっ」
…そうか。ありがとうございます、お頭さん。
「ってぇ―――っ何で殴んだよぅ」
うるさい。俺から擦ろうとするからだ。まだまだ錬には負けねぇよ。
「おぉっ揶矯、良いところに。璃緒=エルを見てはいないかな?」
恐らく…もうシャシャ女中頭に捕まっている頃かと。シラクかラティが協力してなければですが。はい、探し次第全様の部屋にお連れします。
「え?璃緒様?いいえ、今日は私は夜の担当ですから、まだお会いしておりませんわ」
そうか。頑張れよシラク。
「………え?い…っううん知らないですよ?知らないですって…ああぁそんなに顔を近づけないでぇっ」
そっか。騎士宿舎に隠れてるんだな?ありがとうラティ。いつもお疲れ様。
「璃緒様――――――――っ来ちゃったっすよ隊長。」
来ちゃったって、何璃緒様に手を貸してるんだナツメっ
「たっ隊長―――――っ僕は止めたんですけどっけどっ」
分かってる。分かってるよ皐月。璃緒様に逆らえないことくらい身に痛〜い程染みてるよ。
「おっ遅いぜ揶矯ぁ」
貴様…バルドスっはここで酒を飲んでやがったかっ
「揶矯なんかほっとけって。それよりもう一杯どうだ?」
瑯…っ未成年が酒を飲むなっ
「あ、お邪魔してます…」
玖桜様…っ貴方まで何してるんですかっ
「ちょ…腕を離してっ痛いっ…きゃーっちょっとっ何抱えてるのよきゃ―――っ」
うるさい。今日ずっと探してたんですから。王がお呼びなんですよ。
これから王に璃緒様をお連れして…、アイツラを部屋から追い出して…。
やることはたくさんだ……。
うん、今日もいつも通り平和だ。
by 遊 水羽  at 21:55 |  揶矯の日記 |  comment (0)  |   |  page top ↑
プロフィール

Author:遊 水羽
+ゆとりのオリジナルキャラクター
瑯row 玖桜cou 揶矯yata 璃緒akio
の日記形式で展開します。
空飴風味本舗で描く本編とはまた違った瑯達の世界をお楽しみ下さいv
※キャラクター基本設定に変更はありません。
設定は国などをまとめ次第、空飴風味本舗にてUPさせて頂きます。


=言いたいことをぽつぽつと。=

いらした方はぜひ足跡残して下さいなv
コメント大歓迎です!どうぞゆとりに知恵を…!!

また字間違い等ありましたらご連絡下さいっ
ついでに遊がBLに走りそうだったらどうぞ止めてやってください。
ここだけの話、遊の脳内では最初揶矯×瑯の話でした。玖桜はオマケだったという…頑張れヒロイン笑

ゆとりは文才皆無ですので稚拙な文に不快になられる方は全力でこの場から逃げることをオススメします。

未だにキャラの口調が掴みきれてなかったりorz
日記形式ってのが分かり難いんだ←

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更新は不定期になります。
文が完成したらこっそりと更新してます。

ではでは少しでも楽しんで頂ければ幸です(´v`*

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